だけじゃないから
逍喧を先頭に、ラズとイースは後ろについて歩く。
突然、イースがラズの右に回る。光の球を防ぎ、すぐさま向き直る。それが飛んできた方向が光に包まれる。
光の中から人影が飛び出した。舌打ちをして近くの物陰に隠れようとする。
「首陵、止まれ」
ラズが呼ぶと首領は逃げようとしていた足を止めた。
近づくともう一度舌打ちをして睨み返した。深紅の衣の裾の一部は消えていた。
「あれを凌いだのか。なかなかやるね」
後ろから逍喧が声をかける。
「...お前は何をしているのだ」
「見ての通り。今は案内だよ」
「お前も負けたか」
「まあね」
言いながら逍喧は腕を振る。イースの目の前で光が弾けた。
「「...」」
「こう、隙がなくてね」
驚くラズに向かって逍喧は笑顔を向ける。
「案内は交代してもいいかな。貴族さんも知ってるよ」
「...お前を野放しにしておけば何をしでかすかわからん」
「そうかもね」
「逍喧、動くな」
「いやだよ」
イースに向かって小さく手を振って走り去った。
「...イース」
呼ばれたイースはラズを見返す。
「安全」
「...頼む。あいつの相手ができるのはお前くらいだ」
その時間が何を意味するのかラズにはわからなかったが、ついにイースは逍喧を追って走り出した。
ラズはそれを見送って、それから膝をついている首陵を見てため息をついた。
「...何故動ける?」
「俺は知らないぞ」
首陵が言う。
「そもそもここはヴァンリどもが上手く力を使えないはずなのに、動けないのだ」
「首陵、案内しろ。陲画と斑絡がいるはずだ」
「...あのおしゃべりめ」
首陵は立ち上がって歩きだす。それにラズがついていく。
「...これはイヴから聞いた話だが、俺たちは悪魔の子ではないらしい」
「でなければその力はどう説明するのだ」
「さあな。俺に訊くな」
「...イヴ。...あの旅人の連れだったか。何者だ」
「覚えてないらしい。自分自身のことは何も思い出せないのに、悪魔の力や、竜に関しては誰よりも詳しかった」
「...。あのガキといい、お前たちの味方はどうしてそう化け物揃いなのだ」
「そっちこそ、化け物がいるだろう」
「一人だけな。...あのガキは逍喧より強いのか?」
「知らん。逍喧もだが、イースのことも、俺は知らないんだ」
「...」
しばらく二人は黙った。
思い出したようにラズが笑った。
「いや、改めて考えてみると、思想が人間離れしているという意味ではお前たち全員化け物だったな」




