まだ最初だから
「これ本当に一回しか使えないの?」
逍喧の声にマホが口を開く。
「私も使ったことはなかった」
「ないの?」
「最終手段だよ。対象も指定できないし」
「へえ。あまり面白いものじゃないね」
気を失ったローチェを連れて逍喧が去る。それを黙って見送るしかなかった。
「マホ」
ユーリがマホを呼んだ。
「さっきの何?」
マホが逍喧の投げ捨てた機械を拾う。
「パミレー。丁軍の者が装備している兵器だ。周囲の人間の魔力を一時的に奪う」
「人間だけ?」
「そうだ。犯罪者を強制的に無力化できる。私は使う機会がなかったが。一時的とはいえ使用者も含む半径10メートル程度の人間を巻き込む」
「無差別過ぎない?」
「しかも一度しか使えない」
「なんでそんな使い勝手悪いものを」
「さあな。しかし、いつの間にとられたのだろう。なぜ使い方を知っていたのだろう」
「わからないけど、遊ばれてたのはたしかかな。あんなもの使う必要なかったでしょ」
「そうだな」
ローチェを寝かせた逍喧に首陵が声をかける。
「順調か?」
「全然だね。mさんは見たけど、目が合った瞬間に逃げられちゃった。眼鏡さんたちも一緒にいたよ」
「...丁軍のか」
首陵は顎に手を当てる。
「そっちは?卵さんは見つかった?」
「ああ。濫酩たちが向かっている」
「どうにかなりそう?」
「どうだろうな。崔冠は見たか?」
「王様さんか。見てないね」
「そうか」
首陵はローチェの手に光る輪をかけて立ち上がる。
「それで大丈夫なの?」
「精霊の加護のないヴァンリにはこれで十分のはずだ」
「へえ。あ、そういえば髪飾りさんたちは見たよ。磁石さんがいたから放っておいたけど」
「そっちはいい。ヴァンリはいない。...崔冠にはおそらくガキがついている。旅人は匡瑚が相手をしている。あと一人、気になる奴の居場所がわかっていない」
「あれは怖いよね」
「?」
一人になった逍喧の目の前を人形が通り過ぎた。
逍喧は深く考えることなくそれを追った。
ラズと目が合った。
「うご――」
ラズの声が高い音にかき消された。ラズが展開した防御魔法が繰り返し音を立てた。
右腕を振り上げた逍喧が咄嗟に防御魔法で攻撃を弾いた。
振り返るとイースが立っていた。声をかけようとした逍喧が再び攻撃を弾く。続けざまに魔力の塊が飛んでくる。
イースはただ立ったまま仮面ごしに逍喧を見ていた。
「逍喧!動くな!」
ラズの声で逍喧は動きを止めた。同時に逍喧に飛ぶ攻撃もやんだ。
呼吸を整えたラズに逍喧が振り向く。
「王様さん」
「その呼び方はやめろ」
それから、まだ逍喧に顔を向けているイースを見た。
「さっきのは」
ラズが知っている逍喧も常に笑顔だった。だが今ほどの笑顔を見たことがない。
「何?」
イースは黙ったまま。
「綺麗」
皆目見当もつかない