一人じゃないから
「なんやて!?」「なんだと!?」
「たいした驚きようね」
「酔っ払いさんに関しては一番長く一緒にいたんじゃなかったかな。そのわりに理解がないね」
濫酩と首陵が顔を見合わせる。
「どうするの?」
「...陲画を寄越せ」
ぐったりとしたルノをセリから受け取り、両腕を輪で固定する。
「どうする気?」
「殺しはしない。まだ必要だ」
「ようやく方法がわかったのかしら。それは悪魔の子全部?」
「おそらくだが違う」
「わたしはなにをすればいいの?」
「黒い服の旅人がいたな。そいつを探せ」
言いながら首陵はセリに小さな飾りを渡す。
「流石に片腕じゃ厳しいかな」
「逍喧、オマエはヴァンリどもを探してさっきの場所に連れてこい」
「わかったよ」
広がった掌の一撃を黒い盾が受けとめる。
「...まさか止められるとは思わなかったわ」
セリの右手の肘から先が形を変えている。大きな手が盾をつかむ。
「あなた、今一人?」
「一人だよ」
答えて、トワは鞭のように伸びてきたセリの左腕を躱す。
「そう。よかった」
「...おかしいな」
さきほどたしかに斬り飛ばしたはずの相手の腕が一瞬目を離した隙に戻っている。
ルカはとりあえず降ってくる大剣を躱した。
ラズに向かって魔法を放った下僕は一瞬にして消し飛んだ。
「...ありがとう、イース」
まだ仮面を着けているイースの表情は読み取れなかった。
「悪魔と契約して魔物に変身する能力を得たわけですか」
レタに庇われたイヴが仮説を述べる。
「傷が変身のときに治っていました」
リアが杖を振りながら反応した。
「生命力ってやつか。一撃で仕留めるしかないかもねー」
「ここでは悪魔の力が上手く働かないみたいですね」
「おれたちやくにたたないじゃん」
「まほうは」
「つかえないんだよ」
「...どうしろって」
「あなたは人間を殺せないんでしょう?」
壁に押さえつけられたままセリが笑う。
「いいの?このままだとわたしはあなたに殺されるわよ?」
黒い塊によって壁から吊るされたセリをトワは黙って見ている。2人の間には少し距離がある。
しばらくその状態が続いた。
トワが体を捻って躱す。
「あなたの血って赤いのね。なんだか安心」
伸ばした足を元に戻して、地面に落ちたセリが立ち上がる。トワの蟀谷に一筋の赤い傷がついている。
「...肋が折れても緩めてくれないとは思わなかったわ」
「君はそのくらいでは死なないだろう。自分は別に怪我をさせることは出来る」
「死んだらどうする気だったのよ」
一瞬震えて、トワを見返すセリ。どこにも怪我はない。
「全身を変形・変質させられるといったところか。復元もできる。見た限り、制限もなさそうだな」
「それはどうかしら。手以外を変えるのってこう見えて疲れるのよ?」
言いながら、セリは背中から無数の触手を伸ばす。向かって来るそれは、トワに届く前に黒い塊が空中で弾き返す。
「羨ましいわ。わたしのはあくまで身体の一部だから、切り離せないのよね」
再び触手が伸びる。
「痛覚は残っているんだったか。なくせないのか」
「必要よ。わたしだって生き物だもの」
ひとりぼっちがせつない夜♪