特別だから
周囲でいくつか悲鳴が上がった。しかし大多数の者は声を上げる間もなく崩れ落ちた。
包囲を突破して走る。
同じ方向に向かったつもりが、気づけばはぐれていた。
四角い通路をそれぞれが進む。行く先はわからない。
「ごめんみんな...一番逃がしちゃいけないやつ仕留めそこねた...欲張った...」
他の者が見えなくなってからルノがその場で崩れ落ちた。
「立てない?」
唯一隣に残っていたセリが声をかけると小さく首を振る。
「そう。ご苦労様」
2人に近づくものがあった。
「やってくれたね」
逍喧だった。相変わらず腹が立つほど上機嫌だとセリは思った。
「痛くはないの?」
逍喧の腕に巻かれた包帯にはかなりの量の血が滲んでいる。たった今応急処置として巻かれたものだ。
「すごく痛い。ギリギリ繋がっているってところ。見る?」
「結構よ。それで?」
「あの酔っ払いには、殺すように言われたよ」
「無理ね」
ルノが戦えないとしても、セリを殺すことは出来ない。逍喧でさえも。
「かもね。数少ない同志が殺されたから怒っているのかな」
周囲の死体の中に瞬匿のものがあった。
「自分には絶対できないくせに」
言いながらセリが足下を見ると切り落とされた髪の房が落ちていた。
「...ところで、あの人数で追って大丈夫なの?」
逃げた者達を無傷で済んだ悪魔の下僕たちはすぐに追った。死傷者はここに置いていかれた。
「問題があるの?まだ人数では有利のはずだけど」
「随分敵を低く見積もってるのね」
「そんなに強いのか」
「それで、提案なんだけど」
イヴは飛んできたナイフを身を屈めて避けた。飛びかかって来た爪を横に転がって躱す。
「...見た目より。」
少し距離をとったショートルの姿が錆色の衣をまとった人間に変わる。
イヴに対して剣を構えたその腕に魔力の矢が刺さる。
「!」
「やつらの話に出てきた...曠砥だったか」
通路の反対側でレタが弓を構えていた。
「レタ!」
「イヴ、俺の後ろにいろ」
手を押さえて睨み返してくる曠砥。
「悪魔と契約した者には精霊の加護が一切ないんだったか。例外もいるらしいが、お前は違うな」
横から飛んできたナイフを弾く。その隙にショートルの姿になった曠砥が逃げた。
もう一本ナイフを飛ばしてもう一つの人影が逃げていく。
「...深追いはやめておこうか。挟まれるとまずい」
「他のみんなは?」
「はぐれたな。状況がわからない」
「合流しますか?」
「慎重になった方がいいと思う」
「メオ、ほかの人たちは?」
「見てませんね」
「ここなにかへんなんだよ」
「ミヤも?」
「メオもか。ならなにかあくまの力かんれんの――」
言葉を切って振り返ると、スーダがいた。
「...まったくきづかなかった」
「用心したほうがいいかもしれませんね」
「えもう終わったのそっち」
「まあな」
マホが展開した防御魔法が魔力の球を弾く。
「キミって結構強かったんだね」
「竜と比べるとたいしたことないな」
「比べる相手が悪いよそれは」
「わたしにも叶えたい願いがあるのよ」
セリが言うと逍喧が目を閉じる。
「知っていたの?」
セリに担がれたままルノが答える。
「別に...こいつのことだし...そんなことだろうと思った...」
「こうなるともうだれにも止められないかもしれないね。願いっていうのは?」
「今はいいでしょ。そんなことよりも、前から訊きたかったことなんだけど」
逍喧は目を閉じたまま。
「むしろあなたはどうして彼らに協力してたの?」
「どうでもいいね」
立ち上がり、2人で並んで歩き出す。
「そう。...ここってどこなの?」
「城だよ」
「竜は来ないの?」
「知らないよ。でも来たら全滅するかもしれない」
歩いていると真っ二つになった死体があった。
「そういえば、どうしてルノ――陲画がいるとわかっていながら、一列に並んだの?格好の的じゃない。陲画の能力を知らないわけじゃないでしょうに」
さきほどの一撃で悪魔の下僕たちは半分以上が即死するか戦闘不能に追い込まれた。瞬匿も死んだ。逍喧もまた軽くない痛手を受けた。
「どうしてだろうね」
「おれはもう疲れたよ...」
セリに担がれたままのルノが言った。
持てる全力を持って表現を控えめに




