話し合い
「...忘れたとは言わせないよ」
「気分じゃないって言ったんです」
「そう。なんで?今は?」
「自分が気分じゃないとどうして協力できないんですか?」
「...ボクらにとってキミの言葉はそれだけの意味を持つってこと」
「自分をなんだと思ってるんですか?」
「よくわからないけどすごいヤツ。ボクらはキミに救われた。今まで、よくわからなくても、キミに従ったら上手くいった」
「偶然です」
「きけばきくほど」
「...会話が成立してないわね」
ローチェがため息をつく。
「でしょ?ずっとこんな調子。未だに何考えてるのか全く分からない」
いくつもの憐みの目が向けられる。
と、にやけ面をひっこめたルノが振り返る。
「許可する」
広間の扉のひとつが開いた。マホが戻って来ていた。イヴ、トワ、エルが後ろにいる。
「どうだった?」
机からルカが訊いた。
「各地でひどい被害が出た。やはりすぐにいなくなったらしいが」
今回も複数個所で竜が出現した。
「メオは?」
「いなかった。とりあえず軍との連絡は取れるようにした。何か異変があったら教えてくれる」
「エル...どこに行ってたの」
ローチェの呆れを含んだ問いに答えはなかった。
隣からユーリとリアが戻って来た。
「疲れた」
「なにか」
スーダに言われてユーリがくたびれた風に首を振った。
1998年にはあの組織はあった。その頃にユナが引き入れられる。
「...そんなに」
「それだけの間勘違いしてたってこと...?」
2000年夏にセリとスーダ、2001年春にルノ、夏にローチェとラズが加わる。2003年秋にルノ、ローチェ、ラズが逃走。組織の全貌は知らない。把握できているのはもとからいたのは濫酩、瞬匿、首陵、曠砥と呼ばれる4人だけ。逍喧は2000年冬から。聞いた限りまだまだいる。悪魔の子が少なくとも三人。
「...そこまで古くからあったのか」
「あまり派手な動きもしていなかったからな。このあたりに来たのも最近だ」
目的は悪魔の復活。
「共通してるのはそこまでだね」
真の狙いは悪魔を通じて願いを叶えること。
「それぞれが」
「思惑もバラバラで、必ずしも一枚岩じゃないのは確かね」
「ユナだけは真の狙いを知らなかったんだ」
「最初にいかに悪魔の世界が素晴らしいかを説かれたのも俺だけか」
「「...」」
「君たちは真の狙いを知っていながら協力したのか?」
「そのときまだ」
スーダの答えにマホは眉を寄せる。
「物心ついたときには周りにあいつらがいたってこと。おれは子供のうちに捕まえておきたかったとは言われたなあ。...今度はそっちの話を聞かせてよ」
逃走した3人は去年の秋エルと出会う。マホは11月にエルと出会う。
「丁軍にいたというヴァンリは?」
「メオとミヤのことだね」
「同じころにエルから接触があったらしいな。12月に入ってから、ミヤとは連絡が取れなくなった」
「それは」
「スーダたちね。でも逃げられたって聞いたけど」
「居場所は把握できているから、メオのほうはいったん放置ということになったな」
2018年になって、4月の始め、イヴたちとエルが会った頃から、魔物の異常行動が観測されるようになった。4月18向国に妬竜が現れる。25丁国に怒竜。一行はイルテラに向かい、その後ヒルデリア遺跡で怒竜と遭遇。ユナたちも居合わせた。6月15イルテラ近くに現れた妬竜と戦闘。同日靖国で悲竜が出現。妬竜の目撃情報を追って裕国へ。その先で再び戦闘。7月21に大地震。26日にセリたちが裕国に。7月28向国で怒竜、果国でも竜らしい何かが確認され、一行は分担して向かった。スォ-ツカにユーリたちがついた後、飢竜と骨っぽい怪物の戦闘が始まり、怒竜も駆けつけるように乱入。
「整理してみても、やっぱり竜の行動はわかんないね」
「どれも一週間留まることはなく、突然いなくなる」
「ロコについてたあの怪物は、結局何だったの?」
「レーレンです」
突然口を開いたのはイヴだった。
「...それ以外は」
視線が集中してイヴは気まずそうに言った。
「あくまの?」
「違います。...多分」
なおもイヴに訝しげな目を向けるセリにルカが尋ねる。
「そういえばセリたちはニヒツで何をしてたの?」
「...この3人が逃げ出すときに殆球を盗んでいったのよ」
「あれ?大事なものなの?」
「じーっと見てると何かが頭に入って来るよ」
リアが横から口を出す。
「...よっぽど暇だったのかな」
ユーリはげんなりした顔で言う。
「首陵はあれを使って様々な物事を知ることができた。仕組みは知らないが」
「それで、それのかわりになるものの材料を探してたの」
「なるほど?上手くいったの?」
「前ほど完璧じゃないとは言ってたわね」
その後、ネウラでロコを引き入れた下僕たちと追いついた側との間で本格的な戦闘が始まろうとしていた時、突然竜の奇襲を受け、ロコが命を落とした。
「...俺を見るな」
「近くにいたラズが瀕死で済んだのは、ユナが抑えてたからだよ」
「皮肉だな」
今回はレーレンが離れている隙をついて一撃でロコの息の根を止め、たちまち消えてしまった。ついでにレーレンはそのとき消えた。
「わたしは竜というものを初めて見たけど、あれはたしかに人間が相手できるようなものじゃないわね」
「いや、あれはオレたちも格が違うと思う」
「本当に体が動かないなんてこと今までなかったからね」
「ガブですよ。怖の竜」
再びイヴが口を開く。
「あれがですか?」
突然今まで黙っていたエルが反応した。仮面を着けているせいで表情はわからない。
「知ってるんですか?」
「自分は本で見ただけですけど。違ったように見えました」
「見間違いでしょうね」
「そうですか」
スーダが游嬰