まなー
近くの町へ向かって歩いていた邁莢が足を止めた。匡瑚と游嬰も少し遅れて立ち止まる。
何も見えず、何も聞こえない状態で下手に動くのは危ない。
感覚が戻ったとき、3人は何もない空間にいた。
「なんの用だ」
「久しぶり。なんであんなところにいたの?3人そろって」
「やつらとなら別れたぞ。こいつらは勝手についてきただけだ」
ルノの問いに邁莢は後ろを指して答える。
「斑絡。崔冠は?」
匡瑚が横にいたローチェに訊いた。
「さあ」
「さあって」
「へんな」
ローチェの答えに眉をひそめた匡瑚に游嬰が目を向ける。
「...」
「へんなことを気にするんだね、って」
游嬰の言葉をルノが補う。
「かろうじて生きてはいるよ」
ルノの言葉に匡瑚は黙る。
「どんな答えが聞きたかったんだろうな」
邁莢が言うとルノが肩をすくめる。
「...なんの用なの?」
改めて匡瑚が訊くとルノが答える。
「仲間になってほしくて。あいつらが諦めるとは思えない」
「わかってはいたけど相当神経太いわね。わたしたちが何をしたのかわかってるの?」
「逆にどうして今更あいつらのところから出てきたのさ?」
匡瑚が目を向けると今度は邁莢が答えた。
「単純だ。やつらに騙されて利用されていたことが分かったからだ」
その場に沈黙が訪れる。
「...なんだ?」
「...ラズ、崔冠は知ってるって言ってたんだけどね」
ローチェが言うと邁莢は目を見開く。
「はやとちり」
游嬰が言った。振り返ると匡瑚も呆れたように首を振った。
「...勘違いしたのね、その状況で」
「知らなかったのは俺だけか」
「...疑問ではあったんだ。キミの性格を考えると」
「嘘ばっかりだからねえ、あいつら」
ルノがそう言って目を閉じる。
「それで?こちらとしては問題ないんだけど、どうする?」
「拒否権はあるの?」
「もちろん。命令じゃないんだから」
「この場で殺した方が楽ではあるだろう」
「そうでもないかな」
「...そこまで追い詰められてるようには見えないんだけど」
「俺は乗る」
邁莢が言った。
「まあ断る理由はないわね」
邁莢が派手に舌打ちしたのを、匡瑚は聞こえないふりをした。游嬰も無表情のまま頷いた。
「のる」
「決まりだね。あとあんたらの名前を教えて。ちなみにおれはルノ」
「いつまでもあいつらの呼び方で呼ばれるのはボクもいやだね。ローチェだよ」
景色が変わると、古い城のような形の建物の内側にいた。暗い広間のような場所。
ルノがフラフラと歩いて行って椅子に座る。ぐったりと頭を机に向かって投げだす。机からは想像以上に多くの視線が向けられている。
「何もしないから無駄な演技はやめて。...これはどういうこと?」
匡瑚、もといセリが問う。頭を起こしたルノが笑顔を見せる。
「ん?どうしたの?」
「もっとさきから」
游嬰、スーリが呟く。
「全くだよ。最初からこうしてりゃよかったんだ」
「誰かさんが最初から喧嘩売るような真似するし、気分じゃないなんて言って突き放すから」
「気分で決めていいことなのかしら」
「同じようなこと本人にも言われたよ。改めて考えるとそうなんだけどねえ。その気分に今ままで救われてたから」
「...まさかあの化け物どもも」
邁莢、ユナが言うと再びルノが笑う。
「もちろん。心強いでしょ」
「まずは全員自己紹介からか。結構な人数だよ」