望まぬ願い
「お前ら、知っていたのか」
邁莢が睨むと匡瑚が目を逸らす。游嬰は無表情のまま見返す。
「もう俺は手を貸さんぞ」
目線を巡らしながら言うと瞬匿が狼狽える。
「まっ」
邁莢の力が開きかけたその口を塞ぐ。顔を寄せて低く言う。
「この状況でよく口を開く気になれたな恥知らず」
「誰も手貸せなんて頼んでへん」
言われて今度は濫酩を睨む。解放した瞬匿が軽く咳きこむ。
「ではなんと?」
「助けろ」
「...話にならん」
背を向けて歩き出した邁莢に静かな足音がついて来る。無視して進む。
「...正気か」
「しらない」
振り返ると游嬰がついてきていた。後ろからかけられた声に振り向き、抑揚に欠けた声で短く答えた。再び邁莢に向けられた顔はやはり表情が読み取れなかった。
「お前」
「どうする気?悪魔の子がまともな人間の生き方なんてできる?」
游嬰の向こうから逍喧がいつもの嬉しそうな顔と声で訊いてくる。その隣の瞬匿と濫酩が呆気にとられた顔をした。
「いらん世話だ」
歩き出そうとした邁莢を游嬰とは違う足音が追ってきた。振り返ると、匡瑚がいた。その向こうには苦い顔が見えた。
「なんのつもりだ」
「あなたが正しい」
「知っていたんだろう。今変えるくらいなら最初から連中につけばよかっただろうが」
「そう言われると返す言葉はないわね」
それから匡瑚は後ろの3人を振り返る。
「世話になったわ」
逍喧だけが笑顔だった。
「...好きにしろ」
そう言って歩き出した邁莢の後ろを二つの足音はついてきた。
3人が見えなくなってから残された逍喧が言う。
「やっぱり今まで苦しかったんじゃないかな。罪のない人たちを巻き込んで傷つけたり苦しめたりしたわけだし」
「...ずいぶん人間の気持ちが考えられるようになったみたいやな」
「頑張ったよ。追わないのかい?」
「追ってどうなんねん」
「それはそうだ」
止められるはずがない。
「...なんでこうなる」
「それにしても、よく今まで騙せていたものだね」
逍喧と目が合った瞬匿が顔を伏せて小さく呻く。
「詰らないの?」
瞬匿を指さして今度は濫酩に目を向ける。
「...意味がない。それに間違いだったとは言えん」
「つまらない」
笑顔のまま言った。2人は頭を抱え直す。
「さて、これからどうしようか?まず、皆にはなんて弁明するの?」
「...弁明いうな」
「君たちの落ち度でしょう?」
黙った2人に逍喧は再び訊く。
「あの3人は、向こうに加わるかな」
2人にとっては考えたくない事態だろう。
「...ありえる。やつらは手段を選ばん」
「人のこと言えた口かな」
「まともにやれば勝ち目はない」
逍喧の声を瞬匿は無視する。
「僕と話さなくていいの?君たちだけで勝てるかな?」
沈んだ2人の雰囲気とは明らかにズレた逍喧の声。頭の中を思いついた端から言葉にしている。これもいつも通り。
「不思議だね。こうしてみると、君たちのほうがよっぽど悪魔らしい考え方に思えるよ」
話し合っていた2人の表情が歪む。