肢枝
「こんなことしてる場合じゃないんだけどなあ」
数体のリウィクァを片付けてリアが呟く。
「無視するわけにも行かないからさ」
車に這い上がったリアにルカが言う。
「しかし本当に何もないね」
動き出した車の上でリアが窓を見る。
「リアは来たことないんだっけ?」
「うん。ルカはカッハゴ出身だっけ。こんなところでどうやって人が暮らしてるの?」
「南のほうにオアシスがあるから、その周りだけね」
「雨も降らないんだっけ」
「滅多に降らないね」
リアはもらった布を顔を隠すように被り直す。
「...来るんじゃなかった」
「カッハゴには行ったことないって言いだしたのはお前だぞ」
「その後やっぱいいって言った。それにイヴたちだってスェトナ通ったんだからここに――」
進む車のすぐ近くで土砂が巻き上げられる。
咄嗟に飛び降りた3人の後ろで車が横に倒れる。
「...今の見た?」
土煙が落ち着いてからルカが馬に駆け寄りながら言う。周囲はさっきまでと同じように剥き出しの地面だけが広がっている。
「何か、木の根みたいなのがいきなり」
車を起こし終えてからそう続ける。地面の細かい砂で痕が覆い隠される。
「だよね。地面から出てきたのかな」
「俺はよく見えなかった」
幸い車はそれほど壊れていなかった。再び3人を乗せて走り出す。
「何かいやな」
「それ以上言うな。どうせメージェかなんかだ」
レタが言うとルカは何か言いたげにしながらも口を閉じた。
ボーアの南に接する国は二つ。海側が向国スェトナ、禁域側が果国カッハゴ。カッハゴは乾いた国として知られている。内陸側の禁域に沿った位置、海がないばかりか川もない。雨もほとんど降らず人間が生きていけるのはいくつかのオアシスの周辺だけ。
全員に聞こえるほどのバチッという音がした。
「あ、ごめん」
思わず手を引きながらリアが謝る。レタが手をさすりながら顔を顰める。
「もしかして機械が苦手なのもそれで?」
「いや。それは単純に理解できないから」
ルカが尋ねると砂を払い落とした手袋をつけ直しながらリアが答える。
「...もうだいぶマシな季節になってきてはいるんだろうけど、その格好暑くないの?」
「別に」
レタは仏頂面で答えた。
オアシスを囲むように城壁があり、その内側にスォーツカの町がある。町のいたるところに傘はあるが、住人はほとんど見かけない。
「町にはまだ来てないらしいね」
この町の近くで竜は目撃された。特徴からして、おそらく悲竜トウヨイ。一度目撃されてから再び姿を消した。
「かなり近かったみたいだけどな」
「...町の外に出た人がいたってこと?」
「?そうだけど」
「なんのために」
「この国はね、農業に向いてないじゃん?」
「だろうね」
「だから宝石なんかを採って輸出するの」
「ああ、そういえばなんか聞いたことある気がする。...でこれからどうするの?」
「今考えると、やっぱり実際に竜が現れたら何もできない気がする」
「言っちゃったよ」
「一応フュバウからも衛師とか来てるらしいから、とりあえずそっちとも話はしておこうか」
3人が別行動をとっていた時に、町のどこかで大きな音がした。
たのに?