岐、枝、来
「レタ。あれ」
羽毛に覆われたトカゲに似た魔物がいる。
「ウィウェントですね」
魔物は人間の敵として、歴史のある時点から現れた脅威となる存在。未だに謎が多い。様々な種類がいて、それぞれに対する魔物除けがある。ウィウェントは魔物除けでの対処が難しい魔物の一種だ。素早いが、単独行動が多いため、開けた場所ならそれほど脅威ではない。
レタは素早く弓を構え、狙いを定めて矢を放った。魔力の矢が獲物の頭に命中し、一撃で砕け散る。
「結構な距離があったのに、すごいですね」
イヴは色を失ったウィウェントを見ながら呟いた。
「さすがです」
荷車を止めずに進んでいたエルはそれだけ言った。
「弓を使うんですね。こっちでは多いんですか?」
イヴが訊いた。
「いやー全然見ないね。協会でも珍しい目で見られる」
人間は精霊の力を借りて魔法を使う。精霊もまた謎の多い存在だが、人間の想像に反応する。人間が魔物に通用するような魔法を使うとき、多くの者は想像の補助の役割もかねて武器を媒体として使う。弓を選ぶ者は少ない。
「これくらいしか使えなかった」
荷車にはそれほど積荷がない。
荷車を引く馬を見ながらイヴが言った。
「馬車馬にしては大きいですね」
「アタシたちも思った」
「チレって呼んでます。賢いですよ」
エルは倒れた積荷を直しながら言った。
「ここまでですね」
別れ道で、ルカとレタは西へ伸びる道へ向かった。
ふたりに対してエルは向き直る。
「金はこれくらいでいいですか?」
「...いらないって言わなかった?なにもしてないよ?」
「受け取ってもらいますよ」
「ほんとにいいって。本業じゃないし。たまたま道が同じだっただけだもん」
やり取りの後ろからレタが声をかける。
「もらっとけ。どうせすぐ使うだろ」
「むっ」
とりあえず受け取った。
「正確に知ってるわけじゃないんだが、少し多くないか?」
「では」
満足したのかエルはそれだけ言って背を向ける。
「気をつけてー」
ルカが声をかけイヴが手を振って歩き出す。
ふたりが見えなくなってから、イヴが口を開いた。
「ぼくたちもお金はいらないんですけど」
「そういうわけにもいかないんですよね」
振り返らずに歩きながらエルは答える。
イヴが隣のトワを見ると前しか見ていなかった。
「少し回ります」
目の前の道はあちこちにくぼみがあった。荷車の向きを変える。
ガラトゥの町が見えてきたとき、突然トワが口を開いた。
「雇った意味はあったのか」
「師匠?」
小さな声だったが、エルは振り向いた。
「そのほうが面白いんですよ」
イヴは首を傾げたが、エルは前へ向き直った。考える仕草を見せる。
「金ならありますよ」
後ろでふたりは黙っていた。
町に近づくと、行く手に、鬣のある大きなイノシシに似た魔物がいた。
ふたりを待機させてトワが近づく。背中から盾を出して構えた。
目があった。
「!」
なぜか背を向けて走り出した。トワは目でイヴに合図して、まっすぐ森のほうへ逃げる魔物を追った。
戻ってきたトワは見失ったことを伝えた。
「タガフの忌は?」
魔物は忌に近づかない。
「イヌとマツの実です」
イヴが答えながら見ると、エルは首を振る。
「なんだったんでしょうね」
そのまま町に入った。
「ここで待ち合わせをしてるんですよ」
エルが言った。
「一応目撃情報は報告して来る」
トワが言った。
「...金はもらっておけ。断っても無駄だろう」
付け加えた。
しばらくして戻ってきたトワは交渉を続けていたふたりに言った。
「ここ最近、魔物の異常行動が目撃されているらしい」
普通の生物と魔物を見間違えることはない。全く別のもの。らしい