嘘夢
濫酩の後ろで物音がした。
「無事?」
声に振り向くと匡瑚がいた。
「...ここはな。何しとんねん」
「...それで、あなたは、あれから何人殺したの?」
「...オマエはどこかで死人が出るたびにワシを疑ってんのか」
匡瑚は首を振る。
「聞いただけよ。逍喧が呼んでるんだけど」
「...なんや」
2人は隠れ家を出る。ここは遠くから見ると葉のない大木のようだ。
「ちょっと見てほしいものがあるんだけど」
待っていた逍喧は先に歩いていく。2人はその後をついていった。
「...これは」
「...地震で?」
「おそらくね」
黙った濫酩に逍喧が笑いかける。
「嬉しくない?これでニヒツを敵に回さずにすむよ。まあ今までの努力が全部無駄になった誰かさんは可哀想だけどさ」
「...あほ。そこやない」
濫酩は隣の匡瑚の目を見ない。今は何を言っても火に油を注ぐだけだ。
ようやくメオから返信があった。
ニヒツはまだわからないが、今のところはそれほどの被害はないようだ。
イルテラとの連絡はすでについていた。震源は禁域の内側と推定されたと聞いた。これほどの規模だから、まだ不安はある。オズファでも山の近くで大きな被害があったらしい。
とにかく対応のため、マホは急遽イルテラを目指した。
ここ数日は忙しかった。あの地震によって民の生活は脅かされ、対処すべきことは山ほどあった。今はようやく落ち着いてきたころだ。
だがこれで方針を改めざるを得なくなったはずだ。
突然現れたかと思えば我々が手を焼いていた風船事件を解決し、短期間で宰相に近い地位に登った。皆あいつに従った。陛下はそれだけではない気もするが。国はあいつの思い通りに進み、一領主の史子にできることはなかった。
だが我が国でこれだけの被害があれば、その対処のほうを優先するはず。この期に及んで軍の都合を優先するようなら流石にその地位は危うくなる。
どちらにせよこれで正しい方向に向かう。そう思っていた。
次の日も、あいつが姿を現すことはなかった。
大抵は慣用句や諺がもとになっている