各喧
基城の廊下に舌打ちが響く。
たった今出てきた議堂の扉を振り返る。まだ続いている国会の声が聞こえる。
(取り返しのつかないことになる前に早く手を打たなければならないのに...今他国を気にしている場合か?)
拍手がここまで聞こえる。
(このままでは...この国はあいつに乗っ取られる...)
背後の窓から風の音がする。思ったより早かった。
「聞いてないわよ」
案の定聞こえてきた声を聞き流す。振り返らず黙ったまま。
「どれだけの人々を巻き込めば気が済むわけ?」
何も言わなくても一方的に続けられる。
聞かなくてもわかる。
(甘いな)
あるいは、なんの罪もない人間を不幸にして罪悪感がないとでも思っているのだろうか。
「...ここを落としたのか」
斜面を見上げてラズが言った。その足下には石や土の塊が散らばっている。
「人の兵をなんだと思っていやがる」
「...エルだよ」
隣でローチェが言った。
「賭けがしたくなったんだってさ」
「...もう貸さんぞ。...それで?」
「受け取ってはもらえたみたい。あとはその内容が伝わるかどうかなんだけど」
ラズが反対側の沖を見る。
「エルは?」
「...知らない。いつの間にかいなくなってた」
「やつらは?」
「しばらくニヒツにいるみたい。多分オズファの動きとも関係ある」
「そうか」
「また竜が出たりしたらわからないけど」
「...エルはあの連中に何をさせたいんだろうな」
ローチェが無言で肩をすくめる。
本格的に協力するつもりにしては与えた情報は断片的過ぎる。
(...ずっと振り回されっぱなしなのはボクらも同じか)
自分の言いだした作戦を半ば放棄して運に任せるとは。
「...話を戻すけど、これからは?」
ラズが再び振り返ってイースを探す。
イースは黙って西を見ていた。その先のボアロ山には笠雲がかかっている。
ラズが顔を戻してローチェとお互い仮面ごしに目が合う。
「...それ意味あんのかな」
「知らん。...オズファンは」
「流石に危ないでしょ」
ラズが少し考える。
「...一度帰ろう。イース」
呼ばれて白い無地の仮面が振り返る。
集まった3人は玉を取り出した。
「目的」
イースが静かに言う。
「...わからないよイース。ボクらにはもう」
音がして、3人は世界から消えた。