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天地の変  作者: 匹々
次寇の章
23/55

侵、切、臥

「ねえエル。少なくとも今はアタシたちと目的は同じじゃないの?」

「そうですね」

「なにか知っているなら教えてくれない?というかアタシたちと協力しない?」

エルは考える仕草を見せる。

「今はその気分じゃないんですよね」

「...いつ気分になるのさ」

「では」

頭を下げる。

「あ」

ローチェと同じようにエルの姿が消える。

「...またか」

「もうこの程度じゃ驚かなくなっちゃった」

「オレは驚く気力がないよ。...ほんとに何しに来たんだよ...」

「...まあとりあえず、少し休憩しよう」


「あいつらって何人いるの?」

「エルに聞いたところでは6人。そのうち3人が悪魔の力の持ち主だとか」

「へー...」


「そろそろ行こうか。風が強くなる前に帰らないと」

「イヴ起きて。歩ける?」

皆と一緒に立ち上がったリアが声を上げる。

「今気づいたんだけど、頭から水被ったはずなのに服が全然濡れてないんだよね」

「本当だ。言われてみれば」

「竜の力なのかな。そういえばレタは肩大丈夫だった?」

「え?ああ」

繋いである船のほうへ歩いていく。その途中でレタが立ち止まる。

「どうした?」

「今何か聞こえなかったか?」

「どんな音?」

「ええ...どっかで聞いたことあるような」

歩いて来た方を振り返る。

「それじゃわかんな――」

最後まで言い切る前に、全員の体が突風に打ち上げられて宙に浮いていた。

「「っ!」」

なんとか着地した5人の目の前に変わった形の羽毛が舞った。

5人の中心に先ほどまでなかった影がある。二足歩行、頭や前肢、長い尻尾に派手な飾り羽があり、全身も羽毛に覆われている。鋭い鉤爪のついた脚で地を蹴って、呆然とする一行のそばを通り抜けて走っていく。島の端で長い首を上げて周りを見回すように動かす。その姿勢が下がる。

その姿が見えなくなった瞬間。

「「!」」

再び体が浮き上がり、吹き飛ばされる。

地面に激突するか海に落ちる寸前で何かに受けとめられる。

「たっ」

それで勢いは弱まったものの、地面に打ち付けられたルカが両手で頭を押さえる。

何かが形を変えて地面の平らなところに全員を投げ出す。

「...師匠」

トワが歩いて来た。黒い網が形を変えて背中の盾に戻る。

「...雑です」

「悪かった」

「さっきのは...」

「怠竜――ジューカだと思う」

リアが答える。竜は既に見当たらない。

「...また別の竜ですか」

ルカが頭を押さえて転がる。

「なんでアタシだけ...」

「むしろ君でなければ死人が出ていたかもしれない」

マホが僅かに波を被った裾を見ながら言う。

「なにも良くない...」

「トワ。助かったけど、どうやってここまで?」

「走って来た」

どうやら海面を走って来たらしい。

「...最初からそうすればよかったのに」

「忘れていた。それに疲れるんだ」

トワは顔色がよくない。

「帰りは乗るの?」

いやそうな顔をする。

「あっ船」

レタが船のほうに走っていく。

確認して無力感の滲んだ声を上げる。

「参ったな。さっきの余波か...。少し破れてる。直せるか...。この島に使えるものがあるか...」

「これは?」

後ろからついてきたトワが黒い盾を近づけると、崩れるように塊がいくつも落ち、それが形を変えて船体の穴を塞いだ。

「...大丈夫なのか?」

「何分かかる?」

「...イチオまでで6分」

「なら大丈夫」

「わかった」

レタは後ろの皆に出発を呼びかける。


「イヴ?」

「...師匠...」

「行こう」

「...はい」

イヴがついて来る。振り返ろうとするイヴに小さくトワが言った

「何もいない」


「トワってすごいけど、それ以外の魔法は使わないの?」

「...使えない」

「え」

「考え方が古いんですよ」

「働けお前ら」



静かになった無人島で、音がした。船を見送ったローチェの隣にエルが現れる。

「終わったんですか?」

「...とっくにね。驚いた。ただ通りかかっただけだったのかな。どこを目指してたんだろう」

「そうですか」

「...イヴと目が合った。偶然じゃない」

トワも力を使った後は目が合うことはなかった。

「なんでですかね」

「...キミもわからないことがあるんだ」

「わからないことだらけですよ」

ローチェが顔を向けてもエルはあらぬ方向を見ている。

「...あれでよかったの?協力しないままで」

「帰ります」

「待て」

「気が向いたら考えます」

音がして、エルが消える。

ローチェがため息をついて、懐から玉を取り出して振ると、同じ音が鳴った。

今度こそ島には誰もいなくなった。

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