曳拓
「師匠はもう駄目みたいです」
船室でイヴが言った。
「まだ港出たばっかじゃん。ここは揺れてるうちに入らないよ」
「乗り物全般本当に駄目なんですよ」
「オレも強いほうではないけど、列車の音聞いて気分悪くなるって聞いたことにないよ。あれでもバスは平気だったんだ?」
「あれは乗り物のうちに入らないそうです。まず乗ることが滅多にありませんけど」
「なんでよ。...すぐ着くからもう少し頑張って」
船の中でタダを使っていたマホがルカに問う。
「そういえば連絡手段はないのか?」
「タダは持ってるんだけど、多分向こうが見ないね。アタシも見ないもん」
「そんな気はした」
陸に一番近いアルタ島は湾の内側にあり、船で五分もかからない。周10キロメートル程度の小さな島で住居はほとんどないが、半島と違って平らなため施設が集まっており、ニヒツの国としての役割の中枢になっている。
「あれはなんですか?」
船を降りたイヴが陸地側を見上げて言った。半島の周囲より高くなっている木々の開けた場所に、何かが並んでいる。
「なんだっけな?後でレタにきいて」
そう言うとルカは近くの小屋に走ってその扉を叩いた。出てきたカクに、挨拶もそこそこにレタがどこにいるか訊くと、今頃はブアタ島にいると答えが返ってきた。竜はどこかと訊くと、北の小さな無人島と答えられた。
ブアタ島はアルタ島から西。
「...何やってんだか」
カクに礼を言って待っていた4人に伝える。
「まずはレタと合流しよう」
「無理」
トワはアルタに残った。
ブアタ島に着くとレタが弓の手入れをしていた。
「遅かったな」
「遅かったじゃないよっ。なんでこんなところに」
「ここ来てから何してたの」
「こっちも別の問題があるんだよ。それはそれで」
レタが4人に向き直る。
妬竜は北東側から現れたらしい。
「変ですね」
セガサという小さな島の集落を一つ崩壊させてからあとは素通りし、無人島に姿をくらませ、それ以降動いていない。
「そこにいるのは確かなのか?」
「島の上に黒い雲の塊があった。少なくとも俺は動いたのを見てない」
「見に行きはしたんだ」
「あまり下手に刺激しないほうがいいかと思って。そっちは何か作戦はあるのか」
「気合入れてきた」
「お前には聞いてない」
「作戦っていってもなー」
「この五日間動いてないっていうのは」
「六日です」
「今日23か。なんでなんだろうね。竜はその気になれば大陸も横断できそうだけどね」
「わからんなそれは」
「ここに何かあるのかな」
「それなら最初からここに来ればよくない?」
「まず目的もわからないからな」
慌てた声が聞こえたのはそのときだった。
「雲が消えた!」
この収まりの悪さが気に入っている。潔くない




