あお
「ニヒツか」
マホが言うとリアが顔を上げる。
「行ったことある?」
「昔一度だけ」
「へー珍しい」
「そうかもな。だがほとんど覚えていない」
「たしかレタはニヒツ出身だって言ってたかな」
「それも珍しいな」
「そうかも。帰ってきたら聞いてみよっか。どうせ今日はもう何もできないよ」
しばらくしてルカが一人で帰って来た。
「レタは?」
「船」
「え?」
聞けば、港でニヒツの知り合いに会って竜のことを聞き、そのまま一緒に船で向かったらしい。
「ルカは?」
「アタシは皆を連れて来いって。行ったことあるから」
「一人だけで行ったって意味ないだろうに...」
「アタシも言ったんだけどね。どうせ皆来るなら変わらないかって」
「君が言ってもな。そういえば海路もあったか」
「次は三日待たないとないよ」
「少ないね。流石に陸路のほうが早いか」
トワとイヴが帰って来た。
「ニヒツで見つかったとか」
「知ってたか。明日出発する」
翌朝5人はイルテラを出た。メオは別件で残った。
ボーアの北、大陸北西部には深い森が広がっている。森には人間は住んでおらず、道がない。大陸北部から北東部にかけては基国オズファ。ボーアからオズファまで通じる道がある。ニヒツへはそこからオズファへ向かうしかない。
道は鉄道の脇にあり、西は森に挟まれているためあまり太くない。バス二台がようやくすれ違える程度。鉄道は大抵東の禁域との縁に沿って走るため、海岸側のニヒツへは通っていない。
「この調子じゃどこへ行っても同じかもな」
「次はどこに出るやら」
「ほかの魔物も見ないが、これもいつまで続くかな」
同じ日にイルテラを出た二人組が話していた。大きな荷物を持っていた。これからオズファへ行くらしく、5人と別れて鉄道沿いの道を東へ向かった。
「さっきの人たちは、竜を避けて移動したのかな。この時期にわざわざ北に行くって」
二人組と別れてリアが言った。
「竜の話は有名だから知ってる人は多いだろうけど」
「我々も正しく知っているわけではない。竜の伝承が誰しもに正しく伝わっているとは思えない」
「あの人たちは、竜というものをどういうものだと思ってたんだろう。今の状況をどうとらえてるんだろう」
「聞けばよかったじゃん」
「今思ったの」
左手は森との境界に柵がめぐらされており、それに沿って北へ向かう。
森の北側は山が連なっており、海岸との間にこれまた細い道が西のニヒツへ続いている。左側から海へ向かって無視できない傾斜がある。上り坂で少し右にいけば崖。崖の下の海は遠い。
「バスは通れそうにないね」
「船じゃダメなの?こっち側からない?」
「アタシは乗ったことないけど、おすすめはできないかな。そもそも今あるのかもわからないし」
歩くことになった。
「もしかしてリアは船に乗りたかったの?」
「まあ」
「ニヒツではいやでも乗ることになるよ」
歩いていると、左から音が聞こえてきた。
何かが急を斜面を転がり落ちてきた。石と土の塊だった。
見上げたリアが声を上げた。
「すごい」
奥に一際高い山が見えた。頂上は雲で見えない。
「ボアロだね。あれが端だから、もうすぐだよ」
少し歩くと、湾が見えた。
湾を囲んでいるのは、10キロメートルほどの半島。その向かいには大きな島。沖にもいくつも島が見えた。天気は良くない。
高台から半島のほうへ下っていく。
行く手に小屋があった。そのそばの二人にルカが声をかける。
「ユウ、ケイ、久しぶり」
「久しぶりだなルカ」
「レタは?」
「今朝は下にいた。今は知らない」
「行こう」
イルテラを出発して五日目の昼、一行は裕国ニヒツに入った。