旅人たち
地球は自転する。その一周を1日。地球は公転する。その時間を1年。1年365日、4年に一度閏年で366日。
ほかの陸地から離れたクロートゥ大陸は中心の禁域を囲むように各国が位置する。
樹暦2018年4月2。大陸南東、向・果・比国境。
国境の町ザガドには閉門の直前に入った。
「賑わってますね」
宿へ向かう途中でフードを外したイヴが言う。
「国境でこれですからね」
頑丈そうなレンガ造りの宿に入ったとき、旅人らしい三人組とすれちがった。
「?どうしました?」
トワは向き直って首を振っただけだった。
宿の受付で手続きを済ませる。
「今日のうちに店を見ておきましょうか」
宿を出て、町を見ながら歩く。目新しいものが多くあった。食料を少し買った。
しばらく歩きまわってふたりは宿の近くの店に入った。店内は混んでおり、相席で広いテーブルに通される。さっきの三人組がいた。
「二人はどこから?」
注文をすませると、そのうちのバンダナを巻いたひとりが話しかけてきた。騒がしい店内でも響く声だった。ほかのふたりは何も言わずに見ている。
「南の...ツァドルのほうから」
イヴが答える。
「今日から、スェトナを進む予定です。征都まで」
「テドムにずっといたの?」
「いえ、旅の途中で通りました」
「旅の途中?」
「はい。東から来たので。チェグナから南へ行って、テドムの街道辺を通って」
「...どこだっけ?東海岸?」
急に隣に訊く。髪飾りをつけている。
「...チェグナはタグルの港都。テドムを通る南海岸沿いの街道がここまで通ってる」
「へー。...ってことは大陸の外から?」
「はい」
「大陸の外は行ったことないからよくわからないや。わかる?」
「いやまったく。...訊いてばっかだなお前」
「ここはやっぱり人が多いんですか?」
イヴが訊くと、バンダナは髪飾りを見る。
「...街道が交わるところだから、行商人とかはよく見るみたいだな。俺もずっといるわけじゃないから詳しくは知らないが」
ため息をついた髪飾りが答えると、ちょうど定食が運ばれて来た。
「お待たせしましたー」
「ありがとうございます!...先に食べていい?」
髪飾りが苦笑してイヴは頷いた。
「いただきまーす!」
いい匂いがする。
「ごちそうさまでしたー!」
混雑した店を出て屋根のある広場で話す。夜でも明るい。
バンダナはルカ、髪飾りはレタと名乗った。聞けばふたりは士師。南東の内陸部の国カッハゴから来たらしい。
「それで」
「アタシたちは西に用があるんだけど」
もうひとりはエルと名乗った。白いフードを目深に被っている。商人らしい。
「北に行くってならさ」
行商を営むものは多いが、町と町の間の移動は危険が多いので大抵は邑師を雇う。
「途中で会って、ここまでは一緒にこれたんだけど、この先からね。邑師を雇うのはいやだっていうんだけど、一人だと危ないじゃん?」
「それも悪くないですね。ガラトゥまで同行を依頼します」
白い仮面が顔全体を覆っていて、表情は窺えない。
イヴがトワを見ると、静かに頷く。
仮面を着けてるとかいった次の文で表情を描きそうになる