地の匂い
一人で軍府に向かったマホはシャグと出会った。
「おかえり。随分降られたね」
「来ていたか。まさにバケツを逆さにしたような降りかただった」
マホがカッパを広げながら言う。裾が泥に塗れているのを見て顔をしかめる。
「...服も膨れてるじゃん。カッパ着ててそれなの?」
「まともに呼吸ができなかった。風が強かったのもあるが」
「...なにがあったの?」
「竜が出た」
マホが答えると、シャグが奇妙な顔をした。
部屋で待機していた6人に戻ってきたマホが伝える。
「今朝、タグルで竜が出たようだ」
軍には情報が入って来ていた。タグルは大陸の東側。そこで、突然竜が現れた。
「被害は?」
「対峙した現地の衛師に怪我人が多数」
「やっぱり歯が立たなかったんだ」
「そのようだな」
「今のところ死者は出ていないと聞いた」
大きく丸い形の四足の竜。悲竜トウヨイの特徴と一致した。しばらく衛師隊と交戦したのち、突然姿を消しその後は消息不明。
こちらで消えた妬竜も捜索はされたが、付近では見つからなかった。妬竜が消えた後、7人の周囲のごく狭い範囲にだけ大雨が降った。すぐに止んだが、そのせいで7人は状況の確認がその場でできなかった。
「ほぼ同時に複数の竜が出たことになりますね」
「ますますわからないね。何が起こっているんだろう」
「記録を見ると、今までこの程度の被害で済んでるのも変なんだけどね」
「ただ、あれが街へ来たら、本当に壊滅させられてもおかしくない」
「はやく何とかしたいところだが」
「レタの肩はまだ治らないのか?」
「...」
「今は平気なの?」
「全然だな」
「傷は塞がってると思うんですけど。少し痕が残っているくらいで」
「今までは別に動かしても問題なかったんだけどな」
「ところでルカ、シャグはわかるか?今日こちらに来たらしいが」
「...あー...」
「何度か同じ授業も受けたはずだが」
「えっとね、会えばわかると思うんだけど」
「逆に今思い出せるのは?」
「メオでしょ、ミヤでしょ、マホでしょ」
「...」
「...以上」
二日後、妬竜の目撃情報があった。
裕国ニヒツ。ボーアの北の森山地帯の先、大陸北西の国。
歩き続けたまま♪