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天地の変  作者: 匹々
元一の章
15/55

裂鳴と怒号

現れたのは、エルと一緒にいたうちの一人だった。薄緑の布に身を包み、仮面を着けている。

「やられた...」

焦色が歯ぎしりするが体は凍りついたように動かない。

「...動けない」

レタとトワも同じだった。

「...?どうしたんですか?」

身動きできない四人を見てイヴが尋ねる。それを薄緑は見る。声に驚きが滲んでいた。

「...イヴ」

「はい?」

「動くな」

「どうしてですか?皆に何をしたんですか?」

まったく問題がなさそうなイヴを見て焦色が笑う。

「もう一匹化け物がいやがったか...!」

「...まあいい」

そういって薄緑がレタに向き直る。

「ここであったことは忘れろ。前回のことも」

「...これはなんだ。拘束の類じゃないな」

レタが言うと焦色がまた笑う。

「っはは!驚いたか!これが悪魔の力だ!こいつは悪魔に――」

「マイキョウ。黙れ」

薄緑が言うと焦色が黙る。薄緑は這いつくばったままの濃赤に向かって問う。

「これは目的のために必要なことなのか?そこまで大事か?」

「...当然じゃ。手段なぞ選んでおれん」

濃赤の答えに焦色は表情だけでおどけてみせ、薄緑はため息をついた。

「殺したければ殺すがよい。止めたいのならば必要じゃろう」

「...いいか、その――」

薄緑の言葉は大きな音に遮られた。

「「!」」

眩光が閃き薄緑のいた後ろの壁が外から崩され、瓦礫が飛ぶ。吹き飛ばされた薄緑が見えなくなると同時に黒い塊が壁のように立ち上がり、外から飛び込んで来た何かを受け止める。近くにいたイヴがトワたちの後ろへ避難する。

「...なんでしょう」

黒い塊が形を変えるとそこには大きな翼があった。

「竜...」

棘のある翼と牙の生えた吻、頭の鶏冠はこの前本で見た挿絵のひとつとよく似ていた。

「怒...ファンゼルだったか。イルテラの近くで見つかったやつ」

怒竜は翼を振り上げて近くにいた焦色に向かって振り下ろした。

光が散って、焦色の見上げる目の前で見えない壁にぶつかったように竜が止まる。

「...。なぜこんなところにいる」

動きが止まった竜の顔に向けてレタが矢を放つ。

「!」

魔力の矢が竜に届く前に消えた。竜がレタのほうへ向く。

「っ」

尻尾の振り回しを姿勢を下げて躱し、素早く次の矢を放つ。しかしそれも届かない。

レタは腰の短刀に持ち替えて、突き出された棘を躱しながら竜に突き立てたが、短刀が弾き飛ばされた。竜の動きは止まることはなく、宙返りしながら足でひっかくのをレタは転がって避けた。

その勢いのまま叩きつけられた翼を、広がった黒い塊が受けとめる。

再び飛び上がった怒竜が空中にとどまって吠える。

身構えた一同を見渡してから突然勢いよく羽ばたいた。遺跡の天井をぶち破って穴を開け、すぐに黒い雲の中に飛んで行って見えなくなった。

穴から少しだけ雪が入り、それもすぐに止まった。


地上に残された5人はしばらく呆然と見上げていたが、やがて濃赤が焦色に向かって言った。

「...まだやるのか?」

焦色は驚いたように濃赤を見返した。なにか言おうと口を開いたとき。

2人とレタが突然寒気に襲われたように震えた。


「これはひどい有様ですね」

声がして見ると、怒竜が開けた穴にエルが立っていた。その白い外套は微かに雪を被っていた。雪が降っているのは全く見えなかった。

「...退くぞ」

濃赤が焦色に小声で告げ、2人は止める間もなく反対側に走っていった。

エルはそちらには目もくれずに瓦礫を見下ろしながら歩き回り、そのうち立ち止まる。

「聞こえますか?」

エルの呼びかけに瓦礫の下から返事があった。

「...助けて」

「少し厳しいです」

「エル」

イヴが呼んでもエルは手袋をした掌を向けただけで顔は瓦礫を見下ろしたまま。

「...」

しばらくして瓦礫の下から薄緑が這い出してきた。

「では」

それを確認するとエルは薄緑とイヴ達に向かって軽く頭を下げてもと来た道を戻る。

それを追おうとする薄緑をイヴが呼び止める。

「待ってください」

薄緑はちらっとエルの去った方向に顔を向け、それから深く息をついて服の埃を払い落としてから、そばにあった瓦礫に腰を下ろした。外れかけていた仮面を顔からはいでイヴを見返す。

「なんだ?」

「...さっきの竜はなんなんですか?」

「知るか。竜と友達に見えるか?」

「...お前は誰だ?」

地面に座り込んだレタが訊くと見返しながら答える。

「ラズ。やつらは崔冠と呼ぶ」

「さっきの2人は?」

「シュントクと、マイキョウ」

ラズの指が宙に瞬匿、邁莢と字を書く。

「本名は知らん」

「何者だ?」

「知らん」

「目的というのは?」

「答えない」

「さっきの...悪魔の力というのはなんなんですか」

「調べれば出てくる。お前は調べるまでもないだろうがな」

「...?」

入り口で足音がして振り返るとマホがいた。走って来たらしかった。

「...久しぶりだな」

ラズが声をかけると、マホが呟く。

「...君は...ラズか」

「お知り合いだったんですか」

ラズが立ち上がる。イヴが止めようとすると口を開く。

「帰る。長生きしたければ余計なことには首を突っ込むな」


「何があったんだ...。レタは大丈夫か?」

レタが左肩を押さえているのに気づいてマホが声をかける。

「...掠っただけだ」

「見せてください」

イヴが駆け寄る。

「一度帰りたい」

トワが口を開く。

彼らが互いを呼ぶときに使う名は今は使われていない古いものが使われている。他との違いを漢字で表現したかった。意味はだいたい、読みは違うけど

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