断端ども
帰って来たイヴをレタが出迎える。
「おかえり」
「戻りました。いい加減暑くないんですか?もう5月ですよ」
「問題ない。ハヨネの近くで魔物が出て討伐依頼が出された」
レタはこのところ毎日依頼を確認している。
「ヒルデリア遺跡の近くですね」
「ああ。人手が足りないということで譲ってもらえた」
「もう一度行くんですか」
「そうしよう。トワは?」
「散歩です。気が済んだら帰ってきます」
「オレは残るよ。なんかいいの見つけたかもしれない」
「私は別の用事がそちら方面にあるから後から合流するとしよう」
ルカは温泉に行ってしまっている。
「ルカは温泉が好きなんですか?たしかカッハゴの出身なんでしたっけ」
「そうだな。カッハゴには温泉が多くあるけど、暇があれば温泉巡りをしたがるんだよな。この近くにもあるから。最近は思うようにいかないことも多かったし息抜きにもちょうどいいかと思ったんだけど」
「時機が悪かったですね」
鋭い牙をもつイノシシのような魔物が地響きを立てて倒れる。
「やはりしぶといな」
「...こんなあっさりしたダウーフ狩り初めて見たんだが。むしろ探してる時のほうが時間かかっただろ」
「そうか?」
「そんなに魔物と戦うことが多かったのか?」
「まあぼくと会う前から旅をしてるらしいですし。細長いやつでなければほとんど足も止めません」
「...?...それまだ盾のまま使うのか」
「こっちのほうが楽なんだ」
「少し天気が悪くなってきましたけど、遺跡に行きましょうか。もうすぐそこです」
空が黒い雲で覆われ、雪が降ってきた。
「季節外れな。今夏だぞ」
「視界が悪いですね」
イヴが突然立ち止まる。
「今何か光りませんでした?」
「わからん...この音は?」
「...わかりません。遺跡のほうみたいです。急ぎましょう」
そこだけ大きな天井があって雪は入ってこない。
「ウフテン...でしょうか」
イヴが門のそばに下がる。
「あんな黒かったか?」
物陰からの不意打ちを回避した3人と向かい合ってもすぐに向かってこない。
「!」
レタが弓を構えると素早く跳んで後ろの柱の陰に隠れた。
「意味がわからん...こいつもおかしいのか?」
柱に向かって狙いを定めて、顔を出した瞬間を狙う。トワは動かない。
「...」
1分近くそのまま待っていたレタが、弓を少し下げた。
そのときを待っていたかのように柱の陰から飛び出したウフテンは向かっては来ず、隣の柱へ向かった。そちらへ移る前に、レタは素早く狙いをつけ直して矢を放った。
「っ!?」
確かにウフテンをとらえたかに見えた矢が、その直前でパチッと音を立てて弾かれた。向きを変えて真っすぐ向かってきた矢をレタがギリギリで身を捻って躱す。
「...誰だ」
柱の陰から人間が出てきた。焦色の布に身を包んでいた。
その後ろから飛んできたナイフをトワが盾で弾く。レタが見るともう一人が舌打ちしながら柱の陰に隠れた。濃赤の布が見えた。
「何者だ?奴の...エルの仲間か?」
焦色のほうにレタが問い直すと仮面を着けていないその顔が歪んだ。
レタが再び弓を構える。
「さっきのウフテンは?」
「そこにいるだろう」
焦色が後ろの柱を指して言った。
「...?」
焦色は薄く笑いを浮かべて弓を構えたレタのほうへ歩み寄る。
「射ってみろよ半端者」
目前で放たれた矢がその目の前で跳ね返される。レタに当たる直前でトワの盾が弾く。
焦色はトワに忌々しげな視線を向けた。
「邪魔をしてくれるな化け物」
言いながら焦色が手を振るとレタがさっき放ったものと同じ矢が数本飛んできた。
「化け物はどちらだろうな」
トワの盾が拡がってそのすべてを弾く。
「...両方かな」
「気に食わんな」
さらに続けて放たれた矢が物陰に隠れていたイヴにも飛ぶ。トワが盾で庇ったとき、柱の陰から角を下げて向かって来るウフテンが見えた。
次の瞬間、ウフテンが真横に吹っ飛ばされて壁に叩きつけられる。黒い塊が横からぶつかっていた。
「「!」」
「なんという速度じゃ...」
壁際でウフテンが溶けるようにして形を変えた。濃赤の布に身を包んだ人間が現れ、衝撃にせき込みながら転がった。
その呟きに焦色が答える。
「だから化け物といっただろう」
黒い塊がトワの持つ盾に戻る。
「お前ごときが敵う相手ではない」
「...じゃがこの様子では連中の居場所までは知らんじゃろう」
「それでも邪魔には変わりない。いつまで寝ている気だ?」
濃赤が舌打ちをして立ち上がろうとしたとき。
「シュントク、マイキョウ」
その場にある声が響いて二人ともの顔色が変わった。
「レタ、イヴ、トワ。動くな」
慌てて駆けだそうとしていた焦色も含めて全員の動きが止まった。
字は何とおりかある。音だけを表す字と意味を表す字がある
名前は音がもとからあって意味を表す方は誰かがつける