州の宮
イルテラまでの道では魔物に出会わなかった。街に着くころにはガヅェンもいなくなっていた。
ここより東のフットゥ湖から海に向かって大きなエアズー川が流れている。丁国ボーアの王都イルテラは二又に分岐する地点の北にある。
「大きいですね」
街道の橋を渡って城壁を見上げたイヴが言った。
「こうでもしないと場所が足りないんだよ」
「城壁を広げるっていうのは相当大変らしいですからね」
他の町と比べて高い城壁の上には衛師がいる。
「宿はどうするつもりなんだ?」
「...え?泊めてくれるんでしょ軍のところに」
「...まあそうなるか。だが一人部屋はないぞ」
「仕方ないか」
「どうせここの宿は安いとこはみんなそうだよ」
中心に丁城があり、その周りに施設などがある。城壁に近い側に住居が集中しており、北東側のほうが高い。目指す場所は城の北にある。
ルカが遠くに目を向ける。その視線を追ってマホが笑う。
「懐かしいか?」
「...まあ」
「そういえばどうしてルカは学校をやめちゃったの?」
「...えっとね」
「勝負の約束をすっぽかっされたのは忘れていないからな」
「やっぱ覚えてたかあ...」
「勝ち逃げされたのを忘れられるか」
「それ以外全部一位だったんだからいいじゃん。それに今は隊長になったんでしょ?」
「そうはいかん。いずれ必ず」
「...ライバルだったの?」
「ああ」
「...一方的にライバル視されてたんだよ。運動だけアタシのほうが点数よかったから」
城の西側を回る。
「やっぱり他のとこの城に比べると丸い気がするな」
「この都の歴史も割と長いですけど、確かもとは街道の休憩所みたいな場所だったんでしたっけ」
「川があったからな」
「少し東に行ったら山になるし、ここを通る人が多かったんだろうね」
「交通の要所だから人が集まって国ができたんだっけ?」
「省きすぎだが間違ってはいないな」
最初の王は商隊の指導者だった。
「流石に人が多いね」
「いくつか企業の本社もあるんだったか」
「大陸西側の国々の交流も自然とここを介すようになったし、珍しい技術やものも集まるようになった」
「時間があったら市場にも寄ってみたいですね」
「ていうかルカたちはここには来なかったの?ずっと西側にいたんでしょ?」
「...機会がなくてほとんど来なかったね」
「いつ以来だろうな」
「あ、カラットだ。おーい」
ルカが下りてきたゼルドを見つけて声をかける。そのままマホの肩に留まる。
「...え?ゼルド?」
「その子は?」
「なんか懐かれちゃったんだってさ」
「聞いたことないんだがそんな話」
「私もない。今は仕事を手伝ってもらっている」
「仕事をですか?」
行く手に大きな建物が見えてきた。
「あれが丁軍本部だ」
集会室で留守の間の報告に目を通す。
「増えているな」
「でもやっぱり変なのが多いね」
隅でカラットに構っていたルカが振り向く。
「そういえば2人は?」
「今はいない」
マホが答える。
「じゃあ...えっと」
「君の交友関係を把握できていたわけでもないが、ここには君の知る者はほとんどいないと思うぞ」
「...そっか」
荷物を部屋に置いて集まる。マホは書類仕事に向かった。
「これからは?」
「アタシは集会所とかで噂程度でもきいてみよっかな。レタも来る?」
「ぼくは図書館に行ってみます」
「オレも行くよ」
「トワは?」
「市場か広場で話をきいてみるつもりだ」
「...できるのそれ?」
「だめそうだったら図書館に来てください」