軍旗が流れる
雨宿りをしているとすぐに止んだ。
「禁域からの雲だね」
クロートゥ大陸の中心には禁域と呼ばれる地帯がある。山脈に囲まれ、その内側は常に深い霧に覆われている。そこに一度入れば生きては出られないというのは古くから有名な話だ。禁域の調査はできず、まったくと言っていいほどわかっていないが、ときどきその方向から雲がやって来る。ひどいときには嵐にもなるが、全く予測ができない。大陸の人間の悩みの種だ。
「...ここからなら西の道を目指した方が近いんじゃないか」
「それがいいかな。日が暮れる前に着けるか怪しいけど」
出発の準備をしていると、人が歩いて来るのが見えた。
「誰でしょう。こんなところに」
丁軍の制服と帽子を身につけているのが見て取れた。
相手の顔を確認してリアとルカが同時に声をあげた。
「「ゲ。出た」」
「御挨拶だな」
笑いを返す相手に目を向けたあと、レタがきいた。
「知ってるのか?」
「...まあね」
「アタシは結構久しぶりだけど」
「そうだな。まさかこんなところで出会うとは」
それからレタたちのほうへ向く。
「初めましてだな。マホと呼んでくれ。丁軍都部の者だ」
レタたちも簡単な自己紹介を返す。
「少し話さないか」
空にはガヅェンの影がいくつも見える。雨の後に見られる、コウモリのような翼のある魔物。
「多いな」
「さっきからずっと飛び回っている」
ガヅェンは高くを飛び、すぐには降りてこない。油断はできないが、にらみ合いも不毛だ。
「隊長なんだ」
ルカが反応する。
「なんで知り合いなんですか?」
「オレは研究関連でちょっとした問題起こしたことがあって」
イヴの問にリアが答える。
「なにやらかしたんだトラブルメーカー」
「ルカは?」
「アタシは...」
「学友だよ」
ルカが答えようとするとマホが割り込んだ。
「...学友?」
「そう。学生時代の同級生。...ねえどうしてマホはここにいるの?今忙しんじゃないの?」
「竜の調査が思うように進まなくてな。飽きてきたところに珍しい魔物が出たと報告があった」
「竜の調査を放っておくな。堂々とするな」
「このところ奇妙なことが続いているからな。それで、君たちは?この村はなにがあった?」
6人の真ん中で焚き火が音を立てる。辺りは暗くなり始めている。
説明を聞いたマホが呟いた。
「仮面か」
「知ってるの?」
「心当たりはある。...最初に会ったのはフフトナに竜が出るより少し前くらいからだったか。毎度毎度不可解な行動をしては去っていく一味がいる。情報はあるが全く足取りがつかめず。目的もまるでわからない。別に被害が出ているわけでもないがある意味手を焼かされている」
「間違いないね」
相槌に頷き返して続ける。
「特にそのうちのひとりは頻繁に絡んできては聞いてもいない情報を寄越してくる。いきなり現れて好きなだけおしゃべりをして消える。エルと名乗っていた」
およそ400万平方キロメートルの空白