味、野、火
「結界がある」
本来村を守るものとは別のものが外側に一層。
「下がってて。抜くよ」
リアが両手を前に出す。
「早くない?」
「こう見えて結界破抜きは得意中の得意」
「いつ活きるんだよその特技」
やはり村の中には誰もいなかった。
「なにがあったんだろう」
「村の結界は無事みたいだな」
村のなかを分かれて探し回ったが、人がいない以外に異常は見当たらなかった。
「さっきまでは人がいたとしてもおかしくないくらい」
「魔物の仕業ではなさそうですね」
イースは走った。
村人でない人間が村にいたから、一番近くにいた者を攻撃した。
当てるつもりだった。
突然至近距離から繰り出された攻撃を、レタは咄嗟に身を捻って躱した。
近くにいたルカが気づいたときには相手は飛び退いていた。
「...仮面」
相手の顔を見てレタが呟く。
「動かないで」
距離が離れた相手に、リアが杖を向ける。
「キミは何者?」
相手は動かない。
「ここの人たちが」
顔の横に風を感じてリアが転がる。
「「!」」
「っ」
駆け寄ろうとしたルカが両手の剣を交差させて攻撃を受け止める。
相手は再び飛び退いて距離をとる。
「あっぶなー...。よくあの体勢から反応できたね...」
「速い...。本当にギリギリだった...」
相手とにらみ合ったまま、3人は少しずつ近くに寄っていった。
ほとんど隣に並んだとき、仮面がふっと横を向いた。
駆け寄って来たイヴの足音が四人の横で止まる。
「...あの時の」
視線を受けるや相手はイヴのほうへ飛んだ。
「イヴ!」
その目の前で黒い壁ができて攻撃を止めた。
「...師匠...」
しりもちをついたイヴが振り返る。黒い壁が形を変えて後ろから来たトワの腕に戻り、いつもみる盾の形になった。
ひゅっという風の音がして、壁に弾かれた相手とイヴがその場から消えた。
「「!」」
「「あ」」
「...あじゃないんですけど。どこですかここ」
周囲を見回しても足下の地面のほかになにも見当たらない。見えない。
「少し狙いがズレたんですよ。すぐ戻します」
二人のほかには唯一見えるエルが頭の後ろを触りながら言った。
「...質問に答えてください。エルは何者なんですか」
エルは黙ったまま首を振った。
「じゃあこの子は?」
「イースって呼んでます」
イースは黙ったまま動かない。
「...目的はなんですか」
「あるヒトたちを止めたいんです」
イヴが次に目を開いたとき、正面にイースがいた。もといた村の隅で、後ろにはルカたちがいた。
「イース!」
動こうとしていたイースが止まる。声の主がその後ろから駆け寄る。
「...エル」
それからどこへともなく呼びかけると、イヴの横にいたエルが答えて歩み寄る。
「何をさせてるの?」
「今は帰るぞ」
村の外から歩いて来たもう一人が言う。二人はイースを連れて帰ろうとする。
エルも含めて四人全員が顔を覆う仮面と色の薄い布に包まれた奇妙な格好をしていた。
「ルカ、止まれ」
一人が振り返って言って、呼ばれたルカは駆け出そうとしていた動きを止めた。
「では」
エルはそう言って先に戻る三人の後を追った。
そのまま四人はすぐに見えなくなった。
「...なんだったんだあれ」
しばらくたってレタが言った。
「この村の異変と何か関係があるのかな」
近くにあった台車に腰を下ろしてリアが言った。
「それどころかこの辺の異変全部にあったりして」
「だったら怖いな」
「...どうしたの?」
声をかけられたルカが笑う。
「えっ?いやなにも?...久しぶりに緊張して疲れた」
「...ああ、強かったね」
「そういえばトワ、その盾は?」
指をさしてきいたルカにトワは背負った盾を見せる。
「オレも知りたい。あんなふうに形が変わるもの見たことないよ」
「...。...魔法だ」
「「へー!」」
「...そんな魔法あったかな」
「弓も双剣も盾も珍しいよね?なかなか見ない」
「盾だけで戦うやつは俺も初めて見た気がする」
ふとイヴが空を見上げる。
「雨が降ってきましたね」
ちょうしのってやってると