第68話 囚われの女の子
あれから数十分が過ぎ・・・。
「すいません・・・。泣きすぎてしまいました」
「大丈夫ですか? ワール様」
「私は大丈夫よ。それよりグレンドさんに飲み物を出してあげて」
「かしこまりました!」
俺はつい色々と言ってしまった。でもそれでよかった気がする。
今までモヤモヤしていた心がなんだか軽くなった気がしたからだ。
「どうぞ、グレンド様」
「ありがとう」
体の冷えていた俺にアリセは温かい水を持ってきてくれた。
「あとワール様も」
「私はいいわよ・・! アリセ、あなたが飲みなさい」
「ダメですよ! ちゃんと体をいたわらないと!」
「私はそんなに歳を取ってないわよ!」
困難の中でもこれほどまで幸せに笑えるものなのだろうか。カメリアは些細でも大切なこういう笑顔を守るべきだったんだ。
俺は笑顔で会話している二人を見て思わず笑ってしまった。
「な、なんで笑ってるんです?!」
「そうですよ! グレンド様!」
「なんでかな。二人があまりにも楽しそうにふざけあっているからかな?」
「ふざけてないですよ!!」
笑ったのはいつぶりだろうか。勇者パーティーになったくらいからか? それにしても笑うってこんなに良いものだったんだな。すっかり忘れていたよ。
「・・・あの。あんなに怒鳴ってごめんなさいね。私誤解していたのよ。いつもアレスさんはここに来る度に色々なことをしていくから・・・てっきりあなたも・・・」
アレス。どこまでも終わってしまったんだな。がっかりしたよ。
「大丈夫だ。子供達を泣かせてしまったから俺にも非はある」
「そんなことないですよ。私の方に非があります!」
するとアリセがなぜか笑った。
「二人共すっかり仲良しですね!」
「仲良しではないわよ!!」
@@@
「それじゃあ私はもう寝ますね」
「ワール様、おやすみなさい」
ワール子爵は階段を上り自分の部屋に行った。俺は少し風に当たろうと思い、家の外に出て座っていた。
今日は色々あったが空を見上げた時それらはすべてちっぽけなように思えた。この領は明かりがほとんどなく照らしているのは月明りだけ。それのおかげで星が鮮明に見える。ここまで星が綺麗に見える場所が存在するのだろうか。
きっとここに暮らす人々も一日苦しく大変な作業をこなし、そして夜にこの美しい夜空を見て心をいれかえているんだろうな。
そんなことを思っていると俺の隣にアリセがやってきた。
「ここの星空綺麗ですよね。私もよくこうして空を見ています」
「とても綺麗だ」
「グレンド様もわかるでしょ。こうしているとなんだか苦しいことを忘れられるんです。でもそれだけじゃ何も変わらないことはわかっているんですよ。でもただ毎日の終わりに幸せがあるだけで今の私達には贅沢すぎると思うんです。だからそれ以上は願わないんです。願ってこの贅沢が崩れるくらいなら」
「なら贅沢出来る国に変えてやろう。お前もワール子爵もそしてここに住むみんながこの星空を見ることが当たり前になるくらいの贅沢を出来る国に!!」
俺の決意はもう固まった。エレーナ、お前の言われた通り、何もせずに終わるのはごめんだ。だから大きなことを成し遂げてやるよ。
「グレンド様! お願いします!」
アリセは嬉しそうに言った。
「それじゃあ、私はもう寝ますね! おやすみなさい!」
「あぁ、おやすみ」
今日は色々と疲れたし、俺も寝るか。
俺は家に戻り眠りについた。
@@@
「グレンドさん、起きてください」
俺はワール子爵に起こされて目を覚ました。
「おはようございます。上にベッドがあるからわざわざソファーなんかで寝たくてよかったんですけど・・・」
「俺はどこでも寝れるから気にすることはない」
「そ、そうですか」
「それと今日はひとつ行きたい場所があるんだ」
「それは・・?」
俺はワール子爵との交渉がうまく行ったあと向かおうと思っていた場所があった。それは・・・。
「王城だ」
「正気ですか! グレンド様!」
「もちろん俺だけで行く。お前達も来たら問題になるのだろ?」
「そうですが・・でもなぜ王城へ?」
「国王に話がある」
「そうなんですね。アリセ、あれを!」
するとワール子爵はアリセになにかを持ってこさせようとしていた。
「どうぞ! ワール様」
「これは?」
「王城領内の一番人通りが少ない場所が載った地図です」
「なぜこれを?」
「確かにグレンドさんはどの領地にも関係のない人ですが見知らぬ人がいると領を警備してる者に絡まれる可能性があるので」
「そうか」
俺はワール子爵から地図を受け取ると早速王城に向けて出発した。ここから王城まではさほど距離はないが王城の領内を通らなければたどり着くことはできない。多少の警戒はしておこう。
少し歩いていると俺はあることに気づいた。王城領内に入るには関所を通らなければならないということに。俺は三つの支配領地同士でのみ関所が置かれていると思っていたがまさか王城領内にまで置かれているとは。
確かにここ最近アーウェイルでもいつ争いが起こってもおかしくない状況だ。国王や領内の貴族を守るためには当たり前のことか。
それにしてもどうやってここを通れば・・・。
俺は悩んでいるとあることに気づいた。
地図の裏にもさらになにかが書かれていた。それをよく見るとワール領から関所を通らず王城領内に侵入する方法が記載されていた。
こんなこと一体どこでわかったんだ。
とりあえず俺は書かれている通りのルートを通ることにした。
まず関所の近くにある不思議な形をした木に向かう。次にその木の前にある関所の壁を軽く叩く。
すると一定の場所だけ音の響きが違った。そこを木の棒で突き刺すと少しだけ隙間ができていた。そこに指をかけ横にスライドさせる。
地図の裏に書かれている手順をやるとそこには本当に道が出来ていた。
しかしかがんでようやく入れる程度の大きさだった。
俺は躊躇なくその中に入り関所の壁の向こう側に出た。
向こう側に出て思った事はまるで違う世界のようだということだ。
ワール子爵領ではこれほどまでにきれいな家なんてなかった。こんなに綺麗な道路もなかった。明かりも。自然も。
ここの貴族は恐らくいろんなことをやりたい放題なのだろう。国王がまだ十七そこらの若者になったあげくその国王の権力は支配地に吸収されていってしまったからな。でもなぜワール子爵領は権力があるのにも関わらずあそこまで貧困なんだ?
俺はそんなことを考えながら地図にかかれているルートを通っていく。
すると人があまり居ないはずの場所に声が聞こえてきた。
俺はその声の方に近づいていく。
「おい、この女昨日の夜いきなり逃げ出したんだぞ」
「それは悪い子だな。逆らうなんて」
「やめてください・・・。いやです・・」
「この女、昨日からこんな調子でよ。まだ一回も楽しめてないんだよ」
「それは残念だな。しつけが必要なんじゃないか?」
「たしかにな。おい、女! いつになったら服を脱ぐんだよ!」
「・・いやです。だれか・・・たすけて・・」
「助けて? 誰も・・助けてくれねぇよ!! ここではなんでもしていいんだよ!!」
俺はその女性の一言に反応し背負っていた重剣を持ち貴族のもとに出た。
「おい、くそ貴族」
「なんだてめぇ? あぁ! お前は勇者パーティーの!!」
「なんだ? お前もこの女と遊びたいのか? 悪いな。まだこいつ未使用なんだよ」
「遊びたいわけじゃない。助けに来ただけだ」
「はぁ?」
俺は我慢できなくなり持っていた重剣で一人の貴族を斬り殺した。
「お、お前! 勇者パーティーだからといってそんなことが許されると思うなよ!!」
「ここはなんでもしていいんだろ?」
「!? ふざけるな!! 近寄るな!!」
そして俺はもう一人の貴族も斬り殺した。
「あ、あの」
「大丈夫か?」
「は、はい。助けてくれてありがとうございます」
見た感じその女性は十六くらいの年齢だろう。貴族とはどこまでも気色悪いものだ。
俺は女性を助けたあとその場を立ち去ろうとした。すると女性が俺の服を引っ張ってきた。
「あ、あの私・・ついていっていいですか」
俺は正直迷った。なぜならこの子を連れて行けば危険な目に合わせてしまうことが目に見えていたからだ。でも連れて行ってもらうことがこの子の助けなら・・・・。
「君、名前は」
「ミリア・ロディオーヌ・・です!」
「俺はグレンドだ」
俺はその名前に聞き覚えがあった。確かアレスが奴隷として連れてきた・・・・。
「アレスの・・・」
「あ! グレンドは・・アレス様の仲間の!」
「仲間・・・ではあるが・・。今はミリアの味方だ」
正直あいつと仲間と言われて嬉しく思わなかった。
「味方がいてよかったです!」
「それでミリアはなんでここにいるんだ?」
「昨日、アレス様がいなかったのでこっそり抜け出したです!」
あぁ・・・その時はきっとアレスが俺に命令していたときか。
「それで逃げてたらここに来ていたです!」
「どうやってこの王城領内に入れたんだ?」
「アレス様から逃げてる途中で変な貴族に捕まってここに来たです!」
「そうだったのか。あいつらには何もされなかったか?」
「服は脱がされそうになったです。でもなんとか脱げだして・・・」
「そうか。よく頑張った」
「頑張ったです!」
「よし、じゃあはぐれるなよ」
「はいです!」
そう言い俺は王城にミリアと一緒に向かった。
「次回は【第69話 再会】でござる!! 何やら凄そうでござる!!」
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