5 行方
5 行方
病を治すという名目のもと村へ呼ばれた彼女だったが、その行方を辿っても不思議なことに病人には辿りつかない。
彼女が病人達の元へ向かったのは初日…オースティンによって案内された時だけで、暗く閉ざされた部屋の中で動かない義娘達を見ると「静かに見守っていてあげてくださいね」という言葉を残し、場を離れた。
彼女が病人達の元へ行く代わりに足を運ぶのは、エンレイ村の裏山だった。
あの痛ましい事故の起きた場所だ。恵みをもたらすと同時に危険もある。
何十年と山を駆け、慣れた者でもあのような事故が起こるのだ。
そのため考え直して頂けませんかと、もちろんオースティンを始めとした村老達は揃って止めたが、「必要なことなんです」と彼女に言われてしまえば制止の手を広げ続けることもできなかった。せめて案内人をつけるべきだという意見も多かったが、他ならない彼女が決して首を縦には振らなかった。
危険なことはしない。小さな傷、一つでもつけばお願いする。
苦渋の表情をするオースティン達を見兼ねてか、彼女の方から持ち出された約束は未だ破られる気配もみせない。
彼女が毎日山へ入って一体何をしているのか、その謎も解き明かせないまま時間だけが過ぎていった。