29 幾度季節を巡り、幾千の魂を還しても。貴方はまだ私のことを覚えていますか
「疲れたね、レオ」
その体の本当の持ち主は右腕に広がる生暖かい感触を受け、そんな呟きと共に目をさました。彼女がその小さな頭を撫でると、眠っていた彼女の手を懸命に舐め続けていた獣は安心したように「クーン」と鼻を鳴らす。
「最後まで勝手な人だったね」
呟かれた言葉だけ見ればそれはとても冷たく見えるが、含まれた感情には温もりがある。
「きっと、一緒に行けたよね」
彼女は微笑むと膝の上に乗ったままの男の抜け殻をそっと撫でた。
そしてどこか遠く、遠くへ想いを馳せているようだった。
そんな彼女を見て、彼女の過去を知る獣は問うた。
「会いに行かなくていいのかって、何言ってるの?レオ」
獣は知っていた。
今、彼女の瞳に映っている人物は。
その胸を支配している人物は。
おどけたように答え、困ったように眉を下げて笑う彼女の心に残り続けているのは。
『カイ』
命は廻り、歴史は繰り返し。
君は今、生きているのだろうか。
それともまだ巡りの中で眠っているのだろうか。
世界は廻る。
命は廻る。
季節は巡る。
君だけを置いて、廻り続ける。
『ミツキ』
―呼ばないで。会いたくなるから。
『ミツキ』
―呼ばないで。もうわたしは君の声すら忘れてしまったのだから。
『…げろ』
『逃げろ!』
「お前はここにいちゃいけない」
廻る。廻る。世界は廻る。
君だけを残して。
―お前、恋をしたことがないの?
「違う」
あれは、恋じゃない。
恋なんかじゃない。
あれは、そんな美しいものじゃなくて。
もっと、もっと。
薄汚れていて。命を縛り付けるだけだったあれは。
「カイ…」
あなたは今、どこにいますか。
幸せに、生きていますか。
まだ、わたしのことをまだ覚えていますか。
願うなら。
どうか。
『どうかそのまま忘れていて。』
これにて第一部完結です。続編を書きながら、気になったところは修正して進めていければと考えております。
読んでくださった皆様、ありがとうございます。
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今後もどうぞよろしくお願いいたします。




