27 追憶
「だから協力して頂戴」
目の前の少女は悪びれもせず、もう隠すこともなく。
黒髪の女に対して微笑んだ。
「まさか気づかれていたなんて、思いもしなかったわ。最初から分かっていてわたくしに着いてきたの?」
「…」
「…そう。ぼんやりしているようで、変なところは鋭いのね」
少女は困ったように唇に弧を描くと、肩にかかっていた髪を払い、目の前に立つ女を、静かに見上げた。
まさに淑女と言われるような上品な仕草は、みた者全てを虜にするのだろう。
それほどまでに彼女が行う仕草は一つ一つが美しい。
では目の前の女はどうか。
目の前の女はというと。
まずはこう口にした。
「まずはその子から早く出て。アンジェリカにそのつもりがなくても、そのままじゃいずれ拒絶反応がでて、二人とも無事ではすまないよ」
どこまでも冷静な声色で言う。
アンジェリカの声色がわずかに落ちた。
「驚かないのね…それに。この子の体を借りていないわたくしの声が聞こえるの?」
「ええ」
操っていた人物が体から抜け出したことで、少女の体は力を失いその場で倒れ込もうとして。獣が少女と地面の間に滑り込んだ。
「どうして?そんな人、これまでに一度だっていなかったわ」
「…それが私の仕事だからです」
「仕事?」
「…この世に彷徨う死者の魂をあるべき場所へと還す」
「へえ、この世界にそんな人間がいたなんて」
「もっと早く会えたら良かったのに」
昏い表情でドレスの裾を握りしめるアンジェリカ。
その体は大きく息を吸い込み、彼女を再び見据えると。
唇を開いた。
「それが仕事っていうなら…手伝ってくれるのよね、ミツキ」
アンジェリカは探していた。
彼の男のことを。
いや正確には会いに来ていた。
その男に。
「もう見つけているのですか?」
「わたくしを誰だと思っているのよ。彼がいなくなったと聞かされた翌日には大体の居場所は見当がついたわ。ああ、彼は…」
父に連れていかれてしまったのだと。
「そしてわたくしは、そんな彼を追いかけていた道中で死んだのよ」
生まれてからずっと籠の鳥として生きてきたお嬢様が素足で飛び出して生き残れるほど、ベルシュタイン領は治安の良い場所ではなかったのである。
「ねえ、だから手伝って。わたくしはただ彼に会いたいだけなの。会わないと還ってなんてあげなくてよ」
それが彼女の唯一の願いなのだろう。
彼女がこの世に留まり続ける理由。
けれども話を聞いていた黒髪の女は安直に首を縦に振ることはできなかった。
彼女の中に生まれていた懸念は一つ。
「アンジェリカ、貴女…いつからここにいるの?」
女が山を彷徨う幼き少女と出会う前、立ち寄ったベルシュタイン家の領地は活気溢れる街だった。人々は働き、笑い、子供たちは街中を駆け回る。屋敷から出た瞬間…金目の物を狙ってお嬢様が殺される。少なくともそんな場所ではなかったと女は記憶している。
ならば目の前のアンジェリカ・ベルシュタインとは誰なのだろう。
ベルシュタイン家一人娘の、リリィ・ベルシュタインの体を乗っ取って。
治安の悪かった街で賊に殺されたという彼女は誰なんだろう。
黒髪の女は言う。
「アンジェリカ。貴女が探している人は…もう既に亡くなってしまっているのでは?」
その問いにアンジェリカは。
「生きてるわ。わたくしだって彼がもう死んでいればと、何度祈ったことでしょう」
白い壁を突き破って、辺りに一発の銃声の音が轟いた。




