7 雨の降る森
7 雨の降る森
寝転がった時、緑葉の隙間から雲一つない空が見えた。
夏のゲリラ豪雨に襲われることも多かったここ数日。
大きく伸びをした僕は、やっぱり晴れた空の方が心地良いと呑気に鼻歌を歌い始める。
フンフンフン、と。
何て静かで穏やかな空間なんだろう。
ここにあるのは虫の音に、鳥のさえずり、緑の囁き。
それだけで。
奏でられているのは自然のハーモニー。溶け込むように僕は歌い方を変えた。
「タラララン、ラン、ラン」
ノッてきた。
だが、気持ちよく口ずさんでいたはずの僕は次の瞬間、「わぁ!」と大きな声を上げることになる。
「どうしたのさ」
この辺りに住んでいる野兎が突然僕の元に駆け込んできたのだ。
演奏会を邪魔された僕は少し不満げに言う。
だが言われた本人…本兎はどこ吹く風…とっくに走り去ってしまった。
「何だったの…?」
ぼやく僕。しかし一人きりでいるのに返事が来るはずもなく…代わりといわんばかりに答えてくれたのはヒュウと激しい音を鳴らす強風。
一斉に周りの木々が葉を大きく揺らし、僕は上半身だけ起き上げた。
その時だった。
「こんなところで何してるの?」
今度は自然音ではない、人の…女の人の声が辺りに響いた。
驚いた僕が振り返ると、先程野兎が駆けてきた方向からその人は姿を現した。
風に靡く…初めて見る夜空色の髪に、澄み切った静けさをたたえた瞳。
歩いているうちに暑くなったのか、邪魔になったのか…一つに纏められた髪の隙間から覗く耳には深紅のイヤリング。
昼間だというのに手にはランタンを持ち。
彼女の纏う雰囲気は観光客というより、まるで旅人。
「え?」
僕は隠しきれない驚きから思わず素っ頓狂な声を上げた。
女の人はそのまま僕の隣まで歩いて来ると、体に付いた葉を落としてから、もう一度僕に尋ねた。
「一人で、ここで何してるの?」
その声色は森の奥に一人でいる子供を怒っているようなものではなくて。
どちらかといえば。
女の人の瞳がやけに胸に突き刺さる。
とっさに返事ができなくて、僕は言葉を詰まらせた。
僕は…僕は。
答えを探すように暫しの間、少年は目を閉じた。
「僕は…ここで……」
僕はここで何をしているんだっけ
再び吹いた強い突風が二人の間を駆け抜けた。