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死神のとどけびと  作者: 花
森のピアノ
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6 とある客人

6 とある客人


「では…ダニエルさんは今?」

時は戻って現在、フォレスト・スノウにて。

未だぼんやりとしている友人の背を見つめながらオーナーは頷いた。


「俺は近しい身内をまだ亡くしたことがないから分かるなんて言えないが…会えるもんなら会いたいよな、そりゃ」


友人の…人の過去を勝手に触れ回る趣味はないが、これはダニエルと交わした交換条件でもあった。


最果ての地、アルメリアの村。

その後、大陸各地をいくら探してもその村でしか【とどけびと】様に関する情報を得ることができなかった彼は、人海戦術に打って出ることにしたのである。


大切な息子との思い出を…悪い言い方をすれば噂のネタとして食い物にされるのは本心では嫌だろうが、業界内である程度名が通じる内に引き出したい情報とを天秤にかけた結果これが最善だと考えたのだろう。


彼は必要とあればそういう判断を下す男だった。


「オーナー」

「うん?」


そして。ダニエルは結果としてその賭けに勝つことになる。


新入社員は言うべきなのか迷ったように口元に手を当てて考えた後、自身の持つ情報をオーナーに渡した。


「その…【とどけびと様】って人に直接的な関係はないと思いますが……いらっしゃってますよ、今」


直属の上司に報告はしたもののまだオーナーの耳までは入っていないらしい。全員が慌ただしくしていた。タイミング悪く上司はオーナーをつかまえることができなかったのだろう。


「いるって、誰がだ?」

「土砂崩れで動けなくなったバスの乗客の中に……自分も初めて見たので確信は持てないんですが…」


どんなお客様でも平等に扱う、それがこのホテルのポリシーでありながらも…ごく稀に例外はある。

お客様のことを守るため、柔軟に対応するように言いつけられている。

今回のお客様に限っては誰よりも自覚があったようで、自らスタッフの元へ申し出てきた。


バスから降りてきた…深く外套のフードを被っていた彼女は「あまり目立ちたくないので裏口から入れて頂くことは可能でしょうか」とこっそりそれを脱ぎながら言った。その時の衝撃といったら…新人君の人生の中でも一位、二位を争う。


太陽の光に反射して輝いたのは…、


「黒色の髪に、黒い瞳。これって最東ノ国に住む人の特徴ですよね」


目の前にいるオーナーがあんぐりと口を開けた。

いつから聞いていたのか、書類作業をしていたはずのダニエルも驚いた表情で振り返る。

ダニエル、オーナーと新人スタッフ。小部屋の中と扉付近、お互いの声はぎりぎり届くほどの距離。会話に入らなかっただけで声は聞こえていたらしい。


「おいおい…あの国と国交を持ってる国なんてないんだぜ。海に閉ざされた国。行き来があるなんて聞いたこともない」


信じられない様子でオーナーは眉を顰める。

大の大人がそんな反応をしてしまう。これはそういうレベルの話だ。


オーナーの語る事実は、彼ら西ノ国の住人にとっては常識的なことだ。

隣国でありながらその実態は謎に包まれ、分かっていることで有名な話といえばその容姿だけ。


話題に挙がった彼女のように皆一様に夜のような髪色に瞳を持っているというだけだった。


嘘を吐いているなんて思わないが、新人である彼の話を信じきれないというのがある種正しい感覚だ。

けれども。


「今、どこにいるんだい!?」


この部屋には今、そうも言ってられない男もいる。

ガタン、と椅子が激しい音をたてて元の位置へ戻った。


「ダニエル…」

「どこに!」

「落ち着けって!」


今にも新人スタッフに掴みかかりそうなダニエルは、間に入ったオーナーによって強く止められる。

新人の彼は初めこそ驚いたように一歩下がったが、ダニエルの悲しみと歓喜が入り混じったような瞳を見て幾分か冷静さを取り戻したようで、静かな口調で答えた。


「ホテルの部屋にずっと閉じこもっておくのも暇だからと。先日からひと気のない森の方へ足を運んでおられました」



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