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死神のとどけびと  作者: 花
1章 とどけびと 
10/23

9 終わりの始まり

9 終わりの始まり


「かつてこの世界には【とどけびと】と呼ばれる方がおりました。赤い光の粒を携え、まるで夜の化身ともいえる風貌をしていたというそのお方は…悲しみで溢れた土地を訪れては奇跡の力を使い。皆の心に安らぎと蔓延っていた未練を鎮めたと言われております」


エンレイ村の集会所には今日も今日とて、色鮮やかな敷物の上に座す老婆を半円を描くようにして取り囲む子供達がいる。


普段から黙って良い子に、けれども少し退屈そうに老婆の話を聞いている彼らだったが、今日はその瞳にいつもと違う熱が籠っていた。


その理由はただ一つ。

遠く離れた伝承上の人物が彼らにとって身近な存在となったからだ。


エンレイ村に蔓延っていた『悲しみの病』は徐々に消え始めた。

長いようで短かった…黒髪の彼女が村を訪れた五日間をきっかけとして。


生と死は表裏一体。自然の摂理で不変的なもの。

誰しもその事を知っている。理解したまま生きていく。


けれどもいざその死が自分の身に襲い掛かって来た時、身近な人間にやって来た時。受け入れられるかどうかは別問題で。形式として葬儀で死者に分かれを告げることが可能だとしても、心までついてくるかは人による。


死に触れる機会が多かった者は静かに祈りを捧げるのかもしれないし、この悲しみもいつかは和らぐと理解している者はただただ耐え忍びながら時が流れるのを待っているのかもしれない。


感じ方など人それぞれで強制されるものではないのだから。


今回…妻達はその悲しみに呑まれてしまった。

呆然とするだけで精一杯。終わって徐々に生まれるのは虚無感と絶望。変わることのない事実は徐々に体を蝕んでいく。


それこそが『悲しみの病』の正体で。


かつてもそうだったのだ。

村全体が悲しみに包まれる何かがあって。そんな折に彼女がやってきた。

そして、彼女は…奇跡を起こしてみせた。


できるはずのない死者と生者の邂逅を。


消えるしかなかった死者の想いを集め…届けてみせた。


おぼろげに浮かぶ月。夜闇に溶ける巨大樹と、額を木の幹につけ祈るように瞳を閉じる人。辺りを取り巻く光。蛍の光かと考えられていたそれが表すのは実は死者の魂だったと、絵画と語りの中に秘められた意味に村人たちが気付いたのはごく最近のこと。


長い長い歴史が紡がれていく中で、この記録者の集う村でさえ忘れゆく出来事もあると【とどけびと】の存在は感謝と同時に衝撃を与えることになった。


けれど。もう忘れられることはきっとない。

少なくとも子供達の命が続く限りは思い出す。


『【とどけびと様】』


村に伝わる伝承の。あの夜、奇跡を起こしてくれた。濡れ鴉の髪の彼女のことを。



≪美しき月の人。それすなわち、すべての声を聞き届ける者。幾年もの時を超え、彷徨う魂を巡りの中へ還すものなり≫







※※※


「エンレイ山にて生息していたはずの●●●の反応が消失しました」

「原因は?」

「現在確認中です。…ただ」

「何だ?」

「エンレイ村近くで【とどけびと】の目撃情報が入ったとのことです」


※※※



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