鏡の向こうのサヨナラ
女子高生異世界トリップもの
ずっと見ていた。
おばあちゃんから貰った古い鏡。
そこに男の子が写っていた。
10歳くらいの男の子。
古い中国のような場所で、着物のようなものを着ていた。
最初は鏡の形をした絵なのかと思っていた。
でも違った。
首を傾げれば彼も首を傾げるし、手を伸ばせば彼も手を伸ばした。
写る時もあるし、写らない時もある。
そして何より。
彼は成長していた。
今はもう同い年くらいだ。
彼も向こうで生きているのだ、ということに気づくのに時間はかからなかった。
気持ちが悪い、という感情は一切湧いてこなかった。
それは、最初に見た彼の瞳のせいかもしれない。
だから、この1年間ずっと見ていた。
彼の、輝く黄金の瞳を。
鏡の中のいる、向こうの世界の彼を。
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「やぁ、初めまして、かな?」
初めて聞く声は低くもなく、高くもなく。
しっくりくる、彼にぴったりの声だと思った。
さっきまでとは全く違う光景。
知らない壁、知らないベッド、知らない机。
いつものように鏡を見ていたら、急に光りだして。
気がついたら知らない部屋の中に立っていた。
そして、彼がベッドサイドにもたれかかり、微笑みながらこちらを見ていた。
ここはあの鏡の中の異国、否、異世界なのだと理解する。
戸惑いも、驚きもなかった。
吸い込まれそうな黄金の瞳。
「あなたの名前を教えてほしいの」
挨拶より先にこの言葉が出た。
そう、ずっと知りたかったのだ。
彼の名前を。
彼はいきなりの言葉に驚いたようだけど、少し笑って教えてくれた。
「君の名前は?」
そう聞かれたところで、自分がとんでもなく無礼だったことに気づく。
慌てて謝り、自分の名前を教える。
「その、近くに行ってもいい…?」
彼のあまりの肌の白さ、顔色の悪さに、恐る恐る尋ねる。
彼は病気を患っている。
それは鏡の向こう側にいた時から分かっていた事だ。
しょっちゅう熱を出し、ベッドの中から鏡の中を覗いていた。
頷いたのを確認し、おそるおそるベッドサイドに行く。
顔を上げているのは疲れるだろうと、膝を着くべきか迷っていたら、ここへ、と椅子をすすめられた。
ありがたくそこへ座る。
目の高さが同じところになった。
静かな、黄金の瞳。
だから分かってしまった。
「あなたは、もうすぐ死んでしまうのね?」
彼は微笑んだまま頷いた。
「本当は、鏡を通して触れ合うことも、こんな風に会って話すことも禁止なんだ」
それを可能にしたのが、彼の命の短さなのだ。
「ずっと、こんな風に話したいと思っていた。」
そっと、彼の手が私の方に伸びる。
いくらか迷って、私が逃げないと分かると壊れものを扱うかのように頬に触れた。
「君の世界のことを教えて」
きっと、全ては話しきれないだろう。
それでも私は話始める。
どうか少しでも長く一緒に過ごせるようにと祈りながら。
女子高生異世界トリップものがどうしても読みたくて導入部分だけですが書いてみました。
また流行ってほしいです。