5話 「潜入作戦」
「いってぇ…
あのクソ鬼畜王子、
何が良い案だ…」
一時間前 -----
「君は今から傷負いの戦士だ。
村から出ていったアキナが魔物に襲われ、
アキナを庇ったオーグンが重傷を負う。
このストーリーなら、
村に潜入できるだろう。
ああ一…一方的にオーグンを、
痛めつける日が来るとは。
あ、気付かれるから声は出さないでね」
ウィルの楽しそうに、俺を痛めつける顔…
「……っ‼」
そして現在 -----
二周り以上小さいアキナに、
肩を借りながら村へ向かう。
「オーグン…大丈夫…?」
『止まれ‼』
勇ましい声で呼びかけられた。
横を振り向くと見回りのゴブリン兵が、
小刀を構えている。
『アキナ 今更帰ってきてどうゆうつもりだ』
『パージ…
外で生きていたんだけど、
強い敵に見つかって…
この方が助けてくれたんだ。
お願い…
この方が回復するまで村で療養したい。
回復したらすぐ出て行くから…』
見回りのゴブリンは俺を観た。
言葉が全く分からず、会話が分からない。
とりあえず辛そうなアピールをしてみた。
上から下へとなめるように見られ、
下半身でぎょっとした顔をした。
こんなにアキナに接触してたら、
反応がない方がおかしいんだ…
そのあと俺の目を見てきた。
目が合うと彼が本能的に震えた。
『とと、とにかくこんなのに暴れられたらm
俺らの村はひとたまりもねぇ。
村長の所で話しをつけてくれ』
ゴブリンは踵を返した。
村の滞在は許してくれたのか?
『アキナ…
お前の両親ずっと泣いていたぞ、
顔を見せてやれ』
見回り兵が何かいうと、
アキナは少し複雑そうな顔をした。
ウィルとアキナの言ったとおりだ。
この村では俺の事はしられていない。
村の男たちは、俺を見ると怯えた表情…
はいつものことだ。
だが、女たちは青ざめた表情で見てくる。
まだ何もしていないのに。
その反応は少し傷付く…
俺の盛り上がった部分を見ているからなのか。
ごめんよ…生理反応なんだ…
ウィルがおとりになるわけにもいかない。
人間がゴブリンの村におとりとして行ったらm
これ幸いとゴブリンが襲うかもしれない。
そこで戦いになったら元も子もない。
俺の事は誰でも一目で強いと分かるらしい。
ゴブリンが洞窟の風習を、
何とかしたいと思っているなら、
ゴブリン側から、話しが来るだろうとのこと。
確かに分かる。
でも、ウィルの楽しそうな顔…
いつか絶対に倍返ししてやる。
村長の家に連れていかれた。
村長も俺を見た瞬間、
青ざめた表情をしたが、
長という立場なのだろう、
すぐに表情を引き締め、
考えるようなしぐさで、
アキナからの事の経緯を聞いていた。
アキナは村から出ていった裏切者。
一悶着あるかと思っていたが、
割とあっさり滞在を許してくれた。
アキナもお咎め無しで、滞在していいそうだ。
空き家一軒を使っていいとのこと。
夫婦だと思われたのだろうか…
少し過ぎる待遇に思える。
それにアキナと一つ屋根の下、
俺がまずい…
最近は「抑制」を覚えているとはいえだ。
いや、俺の反応はむしろ通常のはず。
アキナは実家に顔を出す、
と言って行ってしまった。
オーケーなのか?
このまま両親への挨拶というやつなのか?
頭では仲良くしたいだけだと思っている。
でも身体は正直だ。
ウィルは俺がアキナと結ばれること、
どう思ってるんだ。
テンはあんなにアキナと仲良かったのに。
俺がアキナを襲ってしまっていい、と思っているのか?
試しているのか…?
それとも、襲うことを前提に考えているのか。
いや、俺を信じているのか…?
高みの見物で楽しんでるだけか?
考えても考えても分からない。
ぐちゃぐちゃ考えているうちに、
夕方になりアキナが帰ってきた。
アキナの目は真っ赤に充血していた。
「アキナ‼どうした?何かされたのか⁉」
アキナはハッとした表情で、
目をごしごし拭った。
「誰にやられた‼」
「ちがう‼」
俺が家の外に出ていこうとするのを、
小さな手を握りしめて止めた。
「お父さん…お母さん…私…心配してた…
出て行ってごめんなさい…みんな…泣いた」
アキナは可愛い目に、涙を一杯にためて言った。
そうか…親の立場になったこと、ないから分からなかった。
アキナは家族に愛されていたんだ。
俺の親もこんな風に、心配してくれているのか…?
そう思うと、
少し胸が締め付けられるような感じがした。
俺もアキナと同じ、
故郷から出てきた。
そして長年帰っていない。
落ち着いたら帰ろう。
「そうか…
実家に泊まってくれば良かったのに」
アキナはブンブンと首を横に振った。
その目は決意を決めた目だ。
「家族…大事…だから…わたし…
みんな守る!…オーグン…協力して」
俺はごちゃごちゃ考えているのが、
馬鹿らしくなった。
アキナの手を握りしめ、
「ああ、任せろ」
俺の決意も固まった。
床に枯草を敷いただけの簡素な寝床、
アキナは横になるとすぐ寝てしまった。
縁を切った村に帰ってきたこと。
家族に何か言われるんじゃないか、
と不安だったこと。
皆を守るために俺に協力してといったこと。
まだ十年ほどしか生きていない、
可愛い子が色々背負っていたんだ。
アキナの事を女の子としてだけでなく、
個体として好きになった。
不思議なことに、
その晩は一切性的に興奮することがなかった。
ウィルは俺がアキナを襲わない、
って確信して送り出したんだろうか…
本当食えない奴だ…
ウィルから受けた傷は一日で塞がった。
朝目を覚ますと、
ちょうどアキナが帰ってくるところだった。
「オーグン…怪我…治ったね 早い…
治ったら 村長呼んでる…付いてきてもいいか」
「ああ」
問題はここからだ。
傷の治りが早くすぎて、
一日では状況を掴めてない。
けれど俺の決意も固まっている。
少し強引にでも、
この村で何が起こっているのか、
聞き出してやる。
そんな決意のもと村長の前に行く。
村長は昨日と同じような恰好、態度であった。
「ワタシ タスケタ ナカマ テヲヒケ」
と村長はアキナより、
たどたどしい言葉を話してきた。
うん?
このじじい言葉を話せたのか?
じじいといっても年齢は俺と比べると、
桁が違うだろうが。
アキナが教えたのか?
アキナを見ると、
村長別の言葉知っていたんだ…
みたいな顔をしている。
元から言語を知っていたんだ。
やはり人間と関りがあるのか?
この地は魔族の集落から、
遠く離れているが、
割と人間の国からは近い。
それに俺らの仲間?
ウィルと行動しているのが、
バレているのか?
そういえば、、
ウィルがここから先は近づくなとか言ってた。
何かしらの方法で、
俺たちの潜伏がバレていたのか。
テン…には他に仲間いないだろう。
無論俺もそうだ。
俺みたいなのがいくら考えても何もわからない。
でもゴブリンから話しを振ってくれるのは、
良い方向に転がっている。
一日で勝手に治ったのに恩を売ってくる、
ってことはゴブリンも相当困っているのだろう。
「分かった 案内しろ」
ちゃんと予定通り事は進んでいる。
俺らは例の洞窟の前まで連れていかれた。
俺と村長、アキナ、
そしてゴブリンの中で一番強い戦士長パージ、
他の者は木の繊維を編み込んだだけの恰好の中、
パージだけは金属の鎧に身を包んでいた。
洞窟前の二人の監視兵は俺の顔をみて、
一瞬怪訝そうな顔をするも、
村長とパージを見て、
諦めたかのように道を空けた。
洞窟の中は薄暗く少し冷える。
アキナは震えているも、
目の色は変わらず勇ましい。
俺とパージはアキナに待ってろといったんだが、
「私…頼んだ…行く…当たり前」
なんてかっこいいんだ。
足場の悪い洞窟の中、
アキナが転びそうになるのを、
支えながら歩いていくと、
開けた空間に出た。
光は遠くの入り口から射してくる。
太陽の光のみの暗い空間、
そこには寝床があり、
装飾された小物がおいてあり、
木で出来た棚がおいてあり、
生活臭がただよっている。
先がいくつも枝分かれになっており、
部屋になっているのであろう。
しかも生活しているのは、一人ではなさそうだ。
今は誰もいない…
留守なのだろうか…
人間をここで匿っていたのだろうか…?
村長が震えながら口を開いた。
「主よ…ナカマ…ツレテキマシタ…
ワレラヲ…カイホウシテクダサレ」
中から返事は無かった。
「主よ…」
中を捜してみた。
枝分かれの先には、鍾乳洞のような、
水が垂れている所があったり、
肥溜め部屋のようなところがあったり、
確かにこの中だけでも生活が出来そうだ。
一瞬の油断…
アキナと十数メートル離れた時、
後ろの何もなかった壁から、
大きな手が出てきて、
アキナの頭をわし掴みにした。
「アキナぁア!」
「黙れぇ!」
そこにいたのは人間では無かった。
オーガだった。
「良かった」と思ってくださったら
是非ブックマーク、★★★★★をお願いします。
筆者が泣いて喜びます。
⚫︎囚われ姫は魔王に救われる
https://ncode.syosetu.com/n1925ii/
恋愛に憧れるが運命を定められた姫を封印が解かれた暴君魔王が攫う物語です。
勇者が姫を救おうとするが、姫は運命か自由かの選択を迫られます。