33話 「つなぐ」
ウィル視点------------
オーグン達と別れ、国に戻っているのだけれど、
僕は結局、何がやりたいのだろう。
国に帰り、
悪魔をまた追い返した所で、
僕はその後どうするのだろうか。
今は好き勝手やっているが、
もう少し大人になったら、
お父様の後を継いで、国王になるだろう。
でも、そうしたら僕という人間は、
いなくなってしまう。
国の事など無視して、
オーグンたちと過ごしていた方が、
幸せに決まっている…
僕は結局、敷かれた道の上から、
抜け出せない。
国が潰れたら、僕は自由になれる。
と思ってはいても、
こうして、僕は帰っているのが、証拠だ。
オーグン達との、楽しかった日々を糧に、
国王として、生きる事になるのだろう。
まあ、僕にはムーが居てくれれば、
それでいいんだけどね。
ムーを見ると、自由に僕の周囲を飛びながら、
虫と交流したり、
小鳥と交流したりしてる。
君が楽しそうなら、それで良い。
背後から、視線を感じる…
……つけられている…
正確には、見られている。
これはメルサの所にあった、
オーガが使っていた、魔道具の感覚か…
だがあれは、テンが持っていたはず。
そんなに何個もあるものなのか?
目の前に突然、3角錐の大きな建物が現れ、
中から悪魔らしき女が出てきた。
「ウィル様 お待ちしておりました」
「僕を見ていた、
趣味の悪い能力を使ったのは、君かい?」
「はい、あなたを探しておりました」
僕は少し機嫌が悪い。
「君は誰?
僕に何の用?
急いでいるんだけど」
少し凄んだだけ、
悪魔は額から、汗を流している。
これくらいで気圧されるのか。
「う、ウィンザード様が、中でお待ちです」
「ウィンザード?
オーグンと会ってるんじゃないの??」
ウィンザードがここにいるということは、
オーグンはすっぽかされたのか?
このような輩に、
オーグンが、おくれを取るはずはない。
でもそれなら、僕がやればいいだけの事。
「ひぃ…」
女の悪魔はそこで、腰が抜けてしまった。
こいつと話していても、埒が明かない。
「いいよ、中に入れば良いの?」
「は、はい、
道なりに行った所に、
ウィンザード様はいらっしゃいます」
「そ」
僕は座り込んだ女の横を通って、
彼女の言う通り、道なりに進んだ。
入り組んだ通路の奥の部屋に、
一人の女性と、一人の悪魔がいた。
この感じ…
また魔道具…
上を見ると、怪しい鉱石があった。
ここまで色々な魔道具があると、面倒だ。
僕は間髪入れず、そこに魔法を撃ち込んだ。
「!!」
直ぐに反応して、悪魔の方が、
僕の魔法を相殺した。
反応と言い、相殺する威力といい、
なかなか力を持っている。
が鉱石にはヒビが入った。
「う、ウィンザード様ぁ…」
「良いのよ藍…
もうそろそろ鉱石自体の、
寿命だとは思っていたわ。
私亡き後には、ウィルに仕えなさい」
「君たちはなに、訳の分からないこと、
言っているんだい?
君達を殺せば、戦争は止まり、
僕もオーグン達の元へ帰れる」
僕は手をかざし、ありったけの魔力を込める
こんな面倒くさいことになって、
こいつらにも、自分にも嫌気がさす。
とっとと終わらせて、
またみんなで楽しく過ごそう…
目の前にムーが立ち塞がった。
「?ムー?何でだい?
君はオーグンの所へ帰りたくないのかい?
君はそっちの味方なのかい?」
ムーはウィンザードの所へ飛んでいった。
「ごめんなさい ムー
私にはもう…
あなたを抱き締める身体が無いのよ…」
ムーは悲しそうな雰囲気を醸し出している。
「ムー
君は僕を騙していたのかい?」
僕にはムーがすべてだった。
生まれてから僕自身も、
ずっと特別扱いされていた。
ムーも同じ境遇だったはず…
僕はムーの事を信頼していた…
ムーは大きく首を横に振った。
「じゃあ何で、そいつの肩を持つんだい?」
僕はムーに裏切られたのだったら…
殺気が膨れ上がる。
ムーは僕を騙していたのか…
ムーが悪魔なのは、分かっていた。
僕にはそんなこと、どうでも良かった。
でもムーはずっと、
ウィンザードの使徒として、
僕についていたのか…
そう考えると、
怒りなのか、悲しなのか、
全身が引き締まり、
つぶれるような感情が、
内から湧き上がってくる。
これが本当の感情ってやつなのか。
頭の中がやけにひんやりしている。
怒りが爆発するって表現があるけど、
僕にとってそれは少し違うな。
僕は冷静だ。
でもこの感情は外に出さないといけない。
もうどうでも良くなる。
ここのすべてを吹き飛ばそう。
そんなことしたら、僕自身、
どうなるかもわからない。
もうどうでもいい…
僕は全身の魔力を、一点に集めた。
この感情が集まるように、
感情の流れに従うまま、爆発させよう。
「お願いよウィル、
私達の話を聞いて…」
ウィンザードの悲痛な叫び。
ムーも僕の手を握り、
首を縦に振った。
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恋愛に憧れるが運命を定められた姫を封印が解かれた暴君魔王が攫う物語です。
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