29話 「妹」
俺はテンがいる寝床に、彼女を運んできた。
山小屋に着き寝かせ、
全身びちゃびちゃの彼女、
どうしようかと思った瞬間、
彼女は目を覚ました。
「な、な、何で私の小屋にいるのよ!!
はっ…!」
彼女は自分の状態を見てから、辺りを見回す。
俺も彼女が何を見てるのか、
もしかして隠した武器を探してるのか、
と思って、目線についていこうとする。
一瞬、干してある下着のようなものが見えた。
来た時は、気が動転しすぎて、
全く気付かなかったが、
この小屋は住んでいる形跡が、そこらじゅうにあった。
「み、見ないでぇ!!!」
彼女が声をあげると、
メルサが、俺の視界を手で隠した。
「え、?」
妹の意外そうな声が聞こえた。
まさかメルサが味方してくれると、思わなかったのだろう。
俺はそんな事より、
この部屋にある、妹の形跡を見たかった。
なんとか、メルサの手の隙間から、覗こうとした。
がメルサの魔法で、完全に視界が塞がれた。
くそっ、メルサ、ここで魔法使うのかよ…
てか、俺にここまで効く魔法…
強くなりすぎじゃねぇか?
「一人で着替えれるわね?」
「え、?
あ、はい…」
「私達は外で待っているから、
着替えと片付け、終わったら、
呼んでくれないかしら?
それと、その子は気を失って寝てるから、
そっとしておいてくれないかしら?」
妹はテンを見ると、
ビックリするも、
メルサの方を見て、
「お心遣い、ありがとうございます…」
といった。
それをメルサが聞くと、
ニコッと微笑んだ。
ように思えた。
俺は見えん…
数十分後、妹は鎧を脱ぎ、
普段着で俺達を出迎えた。
街中で歩いていた女性と同じような、
特徴も無い、無地の上下の服装。
こうしてみると、ウィルの妹は普通の…
めちゃめちゃかわいい、普通の少女だった。
妹は俺たちを中に迎え入れ、
正座で座ると、頭を下げ…
「メルサさん、
先程は失礼な言動…」
と言いかけたところで、メルサは
「良いのよ、慣れてるから」
「ですが…」
「良いの、、、
こうゆう世界って、割りきってるから」
妹は複雑そうな顔をした。
「お兄様は、ちゃんと世界を見ていたのですね」
「そうね…
ウィルは大人び過ぎてるわね」
「メルサさんは、お兄様と結ばれなかったのですか?」
「ふふ、彼には何度も殺されかけたのよ、
結ばれはしないわよ」
「そんな…メルサさんを殺そうとするなんて、
お兄様も女性を見る目が無いのですね」
「違うわ 私が悪党なだけよ」
ガールズトークについていけない。
「オーグン…さんも…ごめんなさい」
妹はこちらを向き 頭を下げずに謝ってきた。
「いや、俺は、その…
あの時は俺もおかしかった…
すまんな…
初対面でいきなり、変なこと言ってしまって」
今でも赤面するほど、恥ずかしい。
あれは黒歴史だ。
己の欲でしか、行動出来ていなかった。
それを聞くと、妹は嬉しそうに、
「そうですよね!
あなたが悪かったですよね。
私は悪くない。
うん オーグンが悪い!!
何で私謝ったんだろう?」
あれ…?
なんか メルサとの差がありすぎないか…
「申し遅れました。
私はオルミナ王国、王子ウィンディ」
チンピラ兵士が言うには、
ウィンディは恨み、
復讐するつもりだと言っていた。
だが、隠すことは彼女に悪い。
俺らはウィンディに、事のすべて包み隠さず、話した。
キンジュから聞いた話も、外の話も全て。
それで、ウィンディが復讐鬼になろうとも、
彼女が選んだ道。
否定など出来ない。
メルサの話に頷きながら、
俺がメルサの話に補足すると、
「お前は話すな」と言わんばかりの、
ウザそうな顔をしながら、
全ての話を聞いた。
彼女は話を聞くと、
遠い目をしながら、
「正直…ここ数日どうやって復讐しようか、
そうゆう事ばかり考えていました」
「ですが、メルサさんに会って、
敵意と恨みを、むき出しにしていた、
私の事を気遣ってくれた…
悪魔や魔族は、悪い人では無かった。
父上と母上が居ないのは、悲しいですが、
二人ともすぐに自害してしまった…
おそらく、国の矛盾を分かっていたのだ、と思います。
メルサさんの話を信じます」
「そうか…」
今なら分かる。
相互不干渉を守るため
他種族と関りを持たせないため
自分の種族を守るため
そのように教育することは当然なんだろう。
オーガの里ですら、近しいものがあったのだから。
「あの…
私もお兄様を探すのに、
連れて行っては、くれないでしょうか?」
?
ウィンディも一緒に来るのか?
いきなりハーレム状態になるのか、
俺得状態…?
今までは、女一人という事で、
メルサに気を使っていたし、
メルサにも、俺が発情しないように、
気を使わせていた。
もしかすると、女子が一人増えることで、
その気遣いが緩むのでは…?
しかもウィンディは、俺のドストライク。
むふふふ、
おっとっと顔を引き締めなくては。
メルサは俺の心を見透かしたかのように。
「ダメよ」
即答した。
「なっ!」
俺とウィンディの声が揃った。
「なんでだ?」
「なんでですか?」
「一つは旅が過酷なこと、
ウィルですら、戦闘ではなく、
旅で危なかった時もあったわ。
ウィンディちゃんの事、庇っていられない。
それともう一つは、ウィンディちゃん、
あなたオーグンの事嫌いですよね?」
「そ、それは…」
「仲間内で邪険に扱ったりすると
空気感が悪くなるのよ」
「……」
ああ、メルサは最初ウィルに、
めちゃめちゃ邪険にされていたな。
あの時は気にしていない、と思っていたが、
空気感が悪くなっていたのを、
気にしていたんだな。
今となっては、
だと思うけど。
「ですが…この男は、お兄様を誘惑したんですよ!」
「ウィンディ…さっきから誘惑って言ってるけど
誘惑ってなんだ?」
と俺が聞くと、
明らかに蔑んだ視線を、俺に当ててきた。
「それを、女性の私に言わせる気…?」
何だろう…
そこまでウィルに対して、変なことはして…
思い返してみると、
しては無い…ゴブリンの時、
多少されたことはあるが…
ウィンディは顔を俯き、
耳を真っ赤にしながら、
「…ここと…………あそこ………」
聞くに堪えれない、破廉恥なことを言い出した。
「ま、待て!」
ウィンディは顔を上げると、
真っ赤な顔をしていた。
とてもかわいい、
じゃなくて、
「そんな事してない!
誰から聞いた?」
「お兄様が出ていったとき、
お父様とお母様が言っていた!
『ウィルは俺らと違うからな』
『ええ、未知を知りたがる、
誘惑には耐えられないでしょう…』
って!言ってたわ!
誘惑って、そうゆう事することでしょう?」
ここで、メルサの助け舟が入った。
「ウィンディちゃん、
オーグンは他種族の女性と、
仲良くなりたく、って旅してるのよ。
ウィルとそうゆう事は無いわ。
それにウィルの事、
未知を知りたがる誘惑って、
この世界の事を知りたい、って事だと思うわよ」
それを聞くと、今まで赤かったウィンディの顔が、
火を噴きそうなほど、紅潮する。
ここは俺の番だ。
俺が論点を変えれば、、
ウィンディのは無かったことになるだろう。
「ははは そうだ!
俺がウィルに、そんなことする訳ねぇだろ!
そうゆうことは、むしろウィンディにしたいからな」
ここから、俺とウィンディの距離は、より遠くなった。
いや、メルサとの距離も遠くなった。
うん。
完全な心の声が出てしまった、失言だ。
しばらく、全員から距離を置かれることとなるのは、言うまでもない
俺の旅の目的が果たされる日が、遠のいていった。
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