27話 「夜襲」
俺らは部屋に案内された。
部屋というより、通路。
沢山の扉がある。
「ここらは誰も使ってねぇから、好きに使いな」
それだけ言うと、
チンピラ兵士は帰ってしまった。
彼は勤務時間が過ぎたら、城下に住んでいるらしい。
ちゃんとやっているんだな。
俺らはたくさんの扉の中一つに入った。
適当に入ったとは思えないほど、
整えられていた。
別々の部屋でも良かったのだが、
俺らはなんとなく、一つの部屋にまとまった。
広すぎて落ち着かなかった。
ウィルが寝るときに使っていた、
台座のようなところに、二人は寝てみたが、
柔らかすぎで、落ち着かないらしく、
結局、全員床で寝る。
俺には小さすぎた。
「今日はほとんど動いてないから、
まだ体力が余って寝れないね…
メルサは精霊王が言った通り、
魔法を使いきって寝ないの?」
テンがそう言うと、
「なんだかここ嫌な感じがするのよ…」
「やっぱり!?
おいらも最初は、トラウマが消えていないだけだ、
と思っていたけど、どうも違う気がして…」
「人間嫌いは直ったのか?」
「うん…
あのチンピラ兵士に再開した時も、
そうゆう感情にならなかったから」
「そうか、良かった」
「オーグンは『良かったな』じゃなくて、
『良かった』なんだね はは
オーグンらしいね」
「??」
しばらく、何気ない会話をしていた。
コツン
コツン コツン
「メルサ、遠くから足音が近づいていない?」
コツン コツン コツン
メルサは神経を集中させる。
「ええ 背格好は人間程。
兵士の鎧を来ていて、誰かは分かりませんわね」
「見回りか?」
「だと 良いですけどね…」
コツン コツン コツッ…
「部屋の前で止まりましたわね」
「おおおお、お化けじゃ無いだろうな」
「なんだテン、お化けが怖いのか?」
「こここ怖くなんかないやい!」
「そうね、お化けと言ったら、ウィンザードですものね」
「やっぱりあいつは、そうゆう感じなんだな」
「じじゃあ怖くないぞぉ」
………
沈黙が場を制す。
「メルサまだいるのか?」
「ええ」
「なな何してるの?」
「扉を眺めて動きませんわ…
ッッ!? 来ます!!」
その瞬間、扉が粉々に蹴破られ、
刀の持った兵士?が飛びかかってきた。
俺は一歩前へ出て、敵の攻撃を受ける準備を、
テンとメルサは回り込み、
敵に一手目を出させた後、
どちらかの技で、身動きを止める準備をした。
悪魔王の時もイルスの時も母の時も、
この戦い方が一番効いた。
敵は思い通り、俺へ刀の柄に手を掛け、
突進して来る。
⁉
だが、敵は身体を反転。
全て見透かしたかのように…
いや、初めから一人を狙っていたかのように、
居合いで切り上げた。
舞う血飛沫と腕…
テンの片腕が切り落とされた。
「テン!!!?」
敵はテンに止めを刺そうと、斬りかかる。
「くそっ!」
俺は敵を蹴っ飛ばした。
「メルサ!テンと逃げろ!!」
敵は俺の事を意にかえさず、
立ち上がると、
すぐさま、テンに斬りかかった。
俺からすると、隙だらけ。
もう一度蹴っ飛ばし、
その隙にテンとメルサが部屋から出た。
ようやく諦めたのか、
敵はゆっくり立ち上がり、俺の方を向く。
二回も蹴っ飛ばしたのに、全く効いてない…
誰だ!?
敵は俺に斬りかかってきた。
俺はいつものように、急所を隠し防ぐ。
シュッ
と剣を振りぬいた、とは思えないほどの音が鳴る。
切られた皮膚から血が流れる。
今までで、一番深い傷が身体に刻まれた。
白虎が一番早いと思っていたが、
力も速さも明らかに格上。
こいつが悪魔を追い返したんだろう。
敵は弄ぶかのように、
俺を逆に蹴飛ばした。
鈍い痛みが腕を伝わり
全身に伝わり
俺は部屋の外に放り出される。
いてぇ
こいつ…
俺より強い…
「オーグン!」
逃げたはずのテンとメルサが、通路に立ち止まっていた。
鎧の兵士が部屋の外で、それを見ると、
構わずテンの方に向かっていった。
「ま、待て」
身体が追い付かない。
テンは立ち向かっていた。
この距離なら、先にテンの技が掛かる!
俺もそう思っていた。
しかし敵は止まらない。
「な、なんで、
なんでおいらの術が掛からないんだ…!!?」
敵がテンの目の前に迫った時。
敵は石のように固まった。
「…かかりましたわ」
メルサの目だけ、以前のように色が変わり、
身体は自分で動けている。
片腕を無くしたテンは、
その場にペタンと座り込んだ。
腕からは絶え間なく、血が出ている。
「オーグン…この下に、隠し通路がありますわ、
私の術も龍の力を取り入れたとはいえ、
長くは続きませんわ。
早く行きましょう」
「ああ‥」
廊下の陶器の床を剥がし、
俺がかがんで、ギリギリ通れるくらいの、通路を行った。
一応メルサの技が解けた後。
通路内で迎撃の準備をしていた。
けれど、テンの血の跡を拭き取っておいたお陰か、
この通路に気付かず、帰っていった。
テンの止血をした後、
狭い狭い通路を三人、無言で進んで行った。
ショックだった…
今までイルスやウィル等、
自分と同格の強さを持った奴と、戦ってきたが。
さっきの敵は、俺よりも格上だった。
何故かテンに執着してたから、生き延びれたが、
俺を殺す気だったら、殺られてた。
メルサもそんな相手を、数十秒止めるなんて、
かなり強くなっている。
アイデンティティーを、奪われた気がする。
「オーグン、テンの手助けを」
メルサの声…そこではっと気付く。
テンが青白い顔で、息を切らしながら歩いてた。
テンがこんな状態なのも気付かないくらい、
自分のことしか考えれていなかったのか…
自分で自分が嫌になる。
俺はテンを抱き上げ、
狭い狭い通路を屈みながら、歩いていった。
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