表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/54

2話 「狐の恩返し」


 「おらぁウィル 

 飲みやがれぇえええ」


 俺はウィルに神のしずく、

 (お酒)の入ったコップを渡す。


 ウィルは静かに、それを一口で飲み干すと、

 そのコップにお酒を注ぎ、俺に渡す。


 「おおおお、

 オーガの族長の俺に酒で勝負を挑むとはなぁ」


 コップに入ったお酒を、一気に口の中へ流し込み、

 コップに並々注いで、ウィルに渡した。


 この酒は人間が作った物らしい。

 中々美味い。


 ”イネ”と呼ばれる、人間の主食の穀物を、長期熟成させた物らしい。

 穀物の甘さと、発酵された芳醇な香りが、飲んだ時に口の中に広がる。


 ツマミも”ウシ”と呼ばれる、

 動物の肉を干した、つまみは絶品だ。


 魔族は魔物を食べるが、

 それとは比較にならない。


 青空宴会…といえば聞こえは良いが、

 だだっ広いのどかな草原地帯の真ん中で、地べたに座り晩酌をしている。

 人は建物の中で飲み食いをするらしい。


 物は人間流、場所は魔族流だ。


 手元を見ると、

 なみなみと注がれた酒があった。

 俺はそれを一気に口に注ぎ込み、

 またなみなみ注いで、ウィルに渡す。


 「ウィル 

 俺に酒でなら勝てると思っているのか?」


 その一言にウィルは火が付いたようだ。


 外から見ていると、温和で和やかな、悪く言えば感情が無い、と思われるような印象だったが、

 実際はこいつ、俺より短気だ。


 周りには道化を演じているのだろうか。


 ウィルも酒を一気に飲み干し、

 注いで俺に渡してくる。


 「オーグンこそ酒以外で

 僕に勝てる事あるの?」


 俺は大人だ…

 こんな挑発乗るはずない。


 酒を飲んで、またウィルに渡した…

 

 頭の中がぐわんぐわん回り、

 草原で横になる。


 まさか俺が先にダウンするとは…


 戦闘は互角だが、

 今のところ酒は完敗だ…

 いや、待てよ…

 なにか引っかかることがある。


 酔って思考が出来ない…



 空は数えきれないほどの星と、

 満月がきれいに光っていた。

 「なぁウィル 夜っていいよなぁ」

 「…君って案外根暗だよね?」

 ムーも飛んできて寝ころび、

 同じように空を見ている。


 三人で空を見上げる。


 「昼間は太陽だけ、

 一人で寂しく光ってるけど、

 夜は、月に星、

 みんなが助け合って

 夜を照らしている」

 センチメンタルなことを言っている気がするが、

 明日には覚えていまい。


 「うん? 俺って根暗なのか…?」

 「…… 君がそれをいうと気持ち悪いね 」


 言い返す気力はなく、

 そのまま眠りに落ちてしまった。



 朝、目を覚ます。

 身体を起こすと目の前が三重に見えた。


 よく見ると目の前に、

 白い二本足で立つ小さな魔物?

 が立っていた。


 初めて見る魔物だった。


 白銀の綺麗な毛並みに

 赤い目

 緩いワンピースのような、

 これはどこかで見たような服装だ。


 だが俺にはそんなこと考える余裕がない。

 

 うぼぉおおおえ


 昨日のツケが回ってきている。

 盛大に吐いた。


 その者は声を震わせながら、

 「お、おいらは天狐 

 オーグン‼

 お、お前の弟子になってやっていいぞ」


 気分が…俺は機嫌が悪い…


 ともすると、

 林の中から木の実を持った、

 ムーとウィルが出てきた。


 この野郎…あんだけ飲んで、

 全く残ってないなんて…


 「やめときなオーグン、

 そいつ妖狐だよ」


 俺は敗北感に苛まれているなか、

 ウィルが何か説明しだした。


 天狐はウィルを睨んでいる気もする。


 そんな天狐の目を気にせず、

 魔法で薪に火をつけるウィル、


 ウィルは取ってきた木の実を、調理しながら、話を続けている。

 「騙し、奪い、喰うがこいつらの専売特許だよ。

 こいつらは魔物じゃない。

 狐の中の突然変異である妖狐は、

 約千年に1匹しか生まれず、

 寿命もないため魔力が強い」


 ウィルは魔法で鍋を作り、魔法で鍋の中に、大気中から集めた水を入れ、木の実を煮込む。


 俺は朦朧とする意識の中、

 ウィルの無駄のない動作を眺めていた。


 本当にこいつは何でも出来る。


 そこらへんに生えている木の実ですら、

 下処理と調理によっては、

 美味いというのは衝撃だった。


 最初は気にくわない奴だと思っていたが、

 世の中こうゆうやつもいるんだな。


 とはいっても俺には女の子オンリーだ、

 安心してほしい。

 

 「しかも白い妖狐、

 名が天狐なんて聞いたことが無い」

 

 やべっ、 

 ウィルの話なんも聞いてなかった。


 …俺の1/25くらいしか生きてないのに、

 博識なんだな…


 「そ、そうだぞ! 

 おいらは強いんだぞ、

 とっとと弟子にしやがれ」

 小さい魔物はビビりながらも、

 啖呵を切ってきた。


 俺に弟子か…

 オーガの里にいる時は、、、

 こんなやつばかりだったな…


 『押忍 オーグンさん!

 一生あんたについていきます』

 『俺らは硬派に生きていくんです。

 オーグンさんは俺らの鏡です!』


 むさくるしかったな…


 俺は嫌な過去に区切りを付け、

 天狐とやらの目を見て答える。


 「やだ」


 俺はあの頃には戻りくない。


 「な、なんでだぁああ!」


 「女の子がいい…」

 言葉は自然と出た…

 そうだ女の子、、、 

 

 女の子ならありだな。


 『オーグンさんかっこいいです』

 『オーグンさんと結ばれたいんです』

 『オーグンさんの子を…』


 「馬鹿野郎!!! 

 俺は自分の弟子には手を出さねぇんだ」


 とか言っちゃったりしてなぁ…

 ムフフフフ、、、、


 今の気持ちで寝たら、そうゆう夢見られるかな?

 俺は寝転がり、

 「おやすみ」

 また目を閉じた。


 「もういい加減起きてよ…」

 ウィルは文句を言っていたが、

 こいつには俺の気持ちは分かるまい…

 せめて夢で…


 「ま、待て、

 連れて行ったら友達の女の子紹介する…」

 天狐の手には、

 俺が破った布の切れ端があった。


 気付いたら寝床から飛び出ていた。

 満面のにやけた笑みで、、


 俺の顔を見て二人は、

 ドン引きをしていた…


 俺の顔はそんなに…

 だろうか…


 ウィルはすぐさま、俺のパンツの切れ端を魔法で繋いだ…




 「うまいっっ!」

 ウィルが作った木の実のスープ。

 ブナ科の木の実は基本的に食べれるらしい。


 ウィルは冬に向けて、

 食べ物を貯蓄する為、

 たくさんの木の実を取ってきて、

 魔法で作った壺に入れ、

 魔法で堀った地中の穴に入れていた。


 オーガにはそのような習慣はない。


 冬には魔物を食べ、

 夏にも魔物を食べる。


 分厚い皮膚で、気温差をそこまで感じない、オーガにとって、

 季節はあまり関係ないのだ。


 「ごちそうさまでした」


 皿を片付けに行く、

 ちなみに“皿”を使うという習慣もない。

 

 ウィルが離れていくのを、

 ちらっと見た天狐が小声で、

 「なぁ オーグン、 

 なんで人間なんかといるんだ、 

 違う種族って交わっちゃいけないんだろ?」


 「知るかそんな規則! 

 俺は俺が好きな奴と一緒にいるんだ」


 ウィルが帰ってくる。


 バンっとウィルの肩を叩く。

 「いて」


 「フーン」

 天狐がウィルを警戒した目で見る。


 ウィルは相変わらず、天狐と目を合わせない。


 俺は二人に流れる微妙な空気を変えるため、

 ウィルのフレンドリーさをアピールしようと、

 肩を数回叩いた。


 今思えば多少、、

 強くし過ぎたのかもしれない。


 とはいっても…

 あそこまで…


 「がははは、 

 こいつはいい奴だからなぁ」


 ブチっ


 何かがはじけた音がした。



 「いてぇっつってんだろ」


 「うん?」


 ウィルは俺の目の前に突風を作ると、

 俺を弾き飛ばし距離を取る。


 ウィルが空に手をかざすと、

 どす黒い暗雲が集まり空を覆う。


 バリバリバリッ


 一瞬にして空は雷が発生し、


 「神のいかづち」

 ウィルはそう言いながら、

 俺に手をかざすと、


 目の前は真っ白になり、

 すさまじい衝撃が全身を走る。


 熱い…

 頑丈なはずの皮膚はめくれ上がり、

 身体は骨の髄までしびれ、

 相当なダメージが与えられている。


 真っ白な中で一瞬、

 人影が見えた気がした…


 俺はその人影に向かい、

 相棒を一心不乱に投げた。


 と同時に人影に向かい突進した。


 初めの相棒は魔盾で弾かれたものの、

 突進を防ぐことは出来なかった。


 ドガァァアアン


 仕留めた。


 俺の突進を受けて、立ち上がった奴はいない。


 肩から生えている角が、

 ウィルの腹を貫き、

 突進の威力で、

 ウィルは血しぶきをあげながら、

 吹き飛んだ。


 瞬間。。

 俺の背筋が凍り付くように、

 冷えたのを感じた。


 とっさに身を半身ずらす。


 瞼が切れた。


 危なかった…

 もう少し遅かったら、

 片目を潰されるところだった…


 ウィルを見ると、

 傷はふさがり立ち上がっていた。


 奴は突進された瞬間、

 身を守るより、

 俺の片目を潰すことに高密度の魔力を使い、

 吹き飛ばされた瞬間から、

 治癒魔法を自分にかけていた。


 とんでもない奴だ…


 ウィルが切れた事による、

 冷静さを失った特大魔法。


 その直撃をギリギリ耐え、

 出来た隙で致命傷を与えたかに思えたが、

 逆に急所に一発貰いかねないカウンター、

 ウィルは自分で致命傷を塞ぐ。


 「うぉおお 今日こそぶっ倒してやる」

 「この自己中がぁ いい加減やられろぉおお」

 「今のでキレるとか、

 どんだけ短気なんだクソ王子」


 お互い同程度の消費

 お互いの間合いの中

 お互い同程度の精神状態


 ここからはいつもの通り、

 互角の戦いであった。


 今まで何回やりあっただろうか。



 お互い体力を使い果たすと、

 以前の草原地帯が荒地となっていた。





ーーー天狐視点ーーーー



 強烈な匂いにうなされて目が覚める、

 身体に布が掛けられていた。


 見覚えがある…

 これは三大魔族のオーガのだ。


 やはりおいらの罠に吸い寄せられ、

 来たのはあのオーガであった…


 いや、待てよ…

 オーガと仲良くなっておけば、

 おいらの身は安全じゃあないのか?

 わざわざ布を置いてくれるってことは、

 邪険には扱われないのでは…?


 オーガを探した。


 朝方ようやくオーガを見つけた。


 とりあえず下手に出て、

 弟子にでもなっておこうとしたが、断られた。


 まあ当然か、


 みよあの…凛々し… 

 うん?欲望にまみれた姿……


 この顔はもしやと思った。


 とはいえ、昨日狩りの為、

 長い間変身してしまった。


 おいらは今変身出来ない。


 とりあえずオーガの布…

 はパンツだったが…を見せて、

 友達という風にしとこう。


 背後から近づく匂いがある…

 おいらの中に憎悪の感情が湧き上がる。


 振り向くとそこにいたのは、


 やはり、に、人間だった…


 おいらの仲間はおいらの目の前で狩られた。

 許せるはずがない。

 人間は敵だ…


 でもここで取り乱してはいけない…


 何故ならあのオーガがいる…

 オーガとこの人間が、どうゆう人間だか知らないが、

 おいらが暴れたとこで、

 オーガにやられて終わるだろう。

 しかも族長のオーグンだという。


 おいらはぐっと感情を飲み込んだ。


 この人間は博識だった、

 おいらの事を知っている。


 だが、それだけだ…


 おいらの敵意も気付いているはずだが、

 特に何もしてこない。


 しばらく観察していると、

 オーグンがバシバシ人間を叩いている。


 ”なぜか”一つ目の妖精を連れている。

 が人間はパシリなんだろう。

 こいつがパシリなら後でどうにでもなる。


 だが、おいらの思考は完全に間違いだった。。


 そのパシリだと思っていた、ウィルという人間は

 凄まじい魔法をオーグンに叩き込んだ。


 あのオーグンですら、

 消滅してもおかしくない程の魔法だった。


 おいらだったら確実に消滅していた。


 だがオーグンは生きていた。

 オーグンは反撃をかます。


 おいらは目で追えなかった。


 人間が血しぶきを上げながら、

 宙を舞っている。


 オーグンの突進した事後だった。


 人間は死んだ。

 この世の生物のほとんどが、

 今ので死に絶えるだろう。


 頭の中が混乱した。


 今まで少なくとも、

 おいらの眼には、

 和気あいあい…

 

 とまではいかなくとも、

 普通に話していた二人が、

 殺し合いをしている。


この二人はなんなんだ。


 と思ったら、

 人間の傷が塞がり、立ち上がった。


 ???


 確実に死んでいた…

 魔族より弱い人間が、

 今のを食らって立ち上がれるはずはない…


 二人は互いの愚痴を言い合い、

 激突した。



 おいらは理解した。



 これは内輪の喧嘩なんだと…

 その”ただの”喧嘩の規模がこれなんだと…

 この二人と喧嘩をしてはいけない。


 そう結論付け、

 地形が変わるほどの喧嘩、

 震えながら、

 遠い目で二人を眺めていた。




●キャラクター紹介

 名前:ウィル

 種族名:人間

 魔魂:S 

 魔躰:C

 寿命:約80年

 能力:万物の魔力を魔魂として使える

 一言:「僕は何のために生きているんだろうか」




「良かった」と思ってくださったら

是非ブックマーク、★★★★★をお願いします。

筆者が泣いて喜びます。




⚫︎囚われ姫は魔王に救われる

https://ncode.syosetu.com/n1925ii/


恋愛に憧れるが運命を定められた姫を封印が解かれた暴君魔王が攫う物語です。

勇者が姫を救おうとするが、姫は運命か自由かの選択を迫られます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ