26話 「卑」
俺らは王宮とやらに、連れていかれた。
そこはこの世と思えぬほど、
豪華な装飾が施されている。
手入れの整った庭、玄関、
どこまで続くのか、長くきれいな通路。
先には、俺ですら大きいと思える扉。
その扉をチンピラ兵士が開いた。
玄関や通路以上にきらびやかな空間。
中央には椅子があった。
この中央に奉られる感じ…
ウィンザードを思い出す。
「キンジュ居るか?」
だだっ広い部屋の隅から、
うっすら物音が聞こえる。
「なによう 今いいとこなのに…」
部屋の隅から、褐色系の中年くらいの女が、
のそりのそり出てきた。
この国に多い、白い肌に明るい髪質ではなく。
初めて見る。
人間と一括りにしていたが、
その中でも、種類があるようだ。
また、人種とは関係ないのだろう。
彼女の雰囲気は、地下室が似合うような感じだった。
外見は気にしていないだろう。
ボロボロの服装に反し、
空いた穴から時折見せる、美しい身体は、
俺を興奮させるのには充分すぎる。
むしろ熟れた果実のような、
彼女の暗く甘ったるい雰囲気が、余計にそそる。
そして根暗そうな雰囲気だが分かる。
この女は人間の中では、ずば抜けて強い。
だが、それも人間。
ウィルとも違う。
一人でウィンザード達を追い返したとは、思えない。
「ウッ…」
テンの顔が一瞬歪む。
「どうしたテン?」
「いや…何でもないよ
気のせいさ」
キンジュはそれを見て、
友好的な笑みを浮かべてくる。
「おや、
鬼さん狐さんと悪魔さんですか、
これまた奇妙な組み合わせですねぇ、
夜の行為は、どのようになさっているのですか?
私は未だ相手がおらず、
一人寂しく発散してます。
羨ましいですね」
「し、なんも してねぇよ!」
俺らの声が揃った。
この女の人は、いきなり何を言い出すのだろうか。
やはり女性でも、そうゆうことを思ったりするのだろうか。
てか、いきなり初対面でかましてくるなんて…
この思考が自分にこだました。
「あら、オーガも意外と租チンなのですね」
その言葉にショックではなく、
興奮を覚えている、自分がいた。
ここでメルサの踵落としが、
綺麗に俺の足の甲に決まった。
痛すぎる…
最近俺が女性に反応すると、
いの一番に畳みかけてくる。
ウィルとの約束が効いているのだろうな…
俺を制してくれるのは、良いことだ。
おかげで冷静になれた。
でも、偶には楽しみが欲しいな…
「お、お前ら、ふざけている場合じゃないぞ、
人間の国にウィンザードが攻めてくるぞ」
そこから、一番に声を発したのはテンだった。
「おや?
貴方達、正面の門から入ってきたのではないですか。
それにウィンザードとは?
人間が崇めていた、あのウィンザードですか?
私もいつか抱かれたい、と夢に見ながら…」
ああ、俺の妄想って周りから見たら、こんな感じなんだ
そりゃ引くわな。
俺は彼女に興奮するが…
「おいらたちは、他のやつの魔法で、
国の内部に飛ばされたんだ、
それにウィンザードは、そのウィンザードだよ。
女のだったけどな」
キンジュとやらは、少し考え込む仕草をする。
「おやおや、
そうでしたか、
ウィンザードが女性なのは知っていますよ。
私達はお互いの情報を共有したほうが、
利があるようですね」
こそっとメルサが俺に耳打ちする。
感じる…
特にこの状況だからか余計に…
「オーグン、彼女の言う通りだけど、
出すべき情報と言葉に、
気をつけた方が良いわよ」
心地よい…
「ええと、まず私から、
私はかつてウィンザードに遣えていた、
騎士『黄』の末裔。
ウィンザード達が留守の間、
人間の国はウィンザードの弟に統治され、
この国では、私のような肌の色は、
奴隷として扱われていました。
性奴隷は、一度なってみたいものですが…
私達の積年の思いは、奴隷解放、平等主義、
外からクーデターを企んでいる時、
悪魔軍が攻めてきた。
私が悪魔軍を追い返した。
ざっとこんな感じですかね」
俺は衝撃を受けた。
この国が、ウィンザードの攻撃を受けた後の国だと?
彼女がそこまで強いのか…?
追い返したってことは、
悪魔王がウィンザードだと知らない。
もしくは、キンジュ達は人間を滅ぼそうとする、
ウィンザードとは対立している。
「あんたが一人で追い返したのか?」
「正確には私の一族数名。
このチンピラ含め、
たまに国から追放されるやつを、匿っています。
誰も私の相手をしてくれませんが…」
パッとチンピラ兵士を見ると、
ブンブンと首を大きく横に振っていた。
そんなに振ると、首が取れるぞ。
まあ…ということは、
ウィルは間に合わなかったのか、
俺らがウィルを追い越したのだろう。
もう一つ疑問がある。
「前に人間の国に来た時は、除け者だったが、
今は邪険にはされていない、
何故だ?」
「言ったでしょう?
平等主義だと、
絶体絶命のところ、悪魔を追い返した実績があれば、
頭の硬い老人を除けば、
私たちの思考は、簡単に受け入れられました。
誰も私を対象とは、見てくれませんが」
何だろう、強者の卑屈具合。
めちゃくちゃにしたいと思うのは。
…っとここで顔バレしたか。
メルサから再び、お痛い制裁が下る。
「ああそうさ、
前回の戦争でも、あんたの活躍が、
密かに知れ渡ってたからな。
そこまで邪険にはしないだろう。
まあ俺は私利に駆られて、
返り討ちにあったんだけどな。
あっはは」
お前の卑屈はいらない。
テンの機嫌が良くない。
そりゃそうか、
テンにとっては、正にトラウマの存在だろうからな。
ただ、今は悪意の様なものは感じない。
パッとメルサを見た。
メルサは首をかしげた。
隠してる情報も、嘘もおそらくなさそう。
黄と言っていた。
クーのところにあった、日誌に出てきた言葉だ。
まさか悪魔ではなく、人間だったとは。
「ええと、、
他に質問がなければ、あなた方の事を聞きたいのですが」
「ウィルの家族が王族だった、と聞きましたけど、
クーデターってことは、全員殺したのかしら?」
メルサが直球の質問をぶつけた。
確かにここには、ウィルに似た人間がいない。
失念していた。
ウィルの家族を殺した、とあらば話は別…
「殺していないです。
信じてもらえないかも知れないですが、
私達が前線で悪魔軍を追い払い、
前線の人間軍を見方につけ、
奴隷の人を味方につけ、
ここに来た時には、
王と王妃は自害していました。
市民もそれまでは、ウィンザード教を信仰していたが、
それも自分に降りかかる火の粉を払うため。
今回のように、
教えが危機に何の意味を成さなければ、
信仰の意味もないです。
おそらく、王も王妃も、それを知っていたのでしょう。
クーデターは、あっさりと決着がついてしまいました。
皆に私の事知られても。
誰も相手してくれませんがね…」
俺らは顔を見合せた。
メルサとテンがいる。
二人が嘘だと認定しないってことは、
おそらく真実。
俺らは前回の戦争で、王宮に招待を受けた事を話した。
「行かなくて正解ですね、
王らは自分を守る為、何癖つけて
魔族は悪いやつだと、印象付けたでしょう。
それこそ強姦等に見せかけて…
私はされてみたいですが…
王族らの恐ろしいところは、欲を利用する所です。
私たちにとって、抗いようがないですよね。
私はここまで来たら、利用されても良いですけど」
俺は血の気が引いた。
確かに女を用意すると、言っていた。
あそこで欲望のまま振る舞っていたら、
人間の魔族嫌いは、取り返しのつかないことに、
なっていたのではないか…
「あ、けど、あんたらと居ないってことは、
ウィル様は行方不明。
ウィル様の妹も見つかっていないぜ。
一応あんたらも気を付けときな。
どんな形であれ、俺らが追い出したのは事実。
魔族へも恨みをも、持たれているだろうからな」
俺らは今までの経緯を、全て話した。
「おや…
そうですか…
ウィンザード様が悪魔王…
複雑ですが、理解できます。
闇落ちしたとはいえ、
代々受け継がれてきた、
ウィンザードの人物像ともつながります。
ですが、人間が永年信仰してきた人が黒幕とは…
私の心中は複雑です。
私たちが相手をしたのは、かつての先祖の仲間、
白い白虎と、赤い鳳凰でしたか、
貴重な外の魔族の状況、感謝します」
「もう暗いですし、今日はここで寝て行ってください。
あなた達みたいなのが夜道に歩いてたら、
流石に怖いでしょう。
ここはだだっ広くて、部屋なら沢山ありますから。
オーグンさんは私のお相手してくださる?」
俺を誘う言葉…
正直この話のって
襲いたい…
俺の苦悩する表情を、
テンとメルサが蔑んだ顔で見てくる。
「うっ……や、やめときます…」
「そう、残念…
また私は一人寂しく寝るとします」
こうしてすんなりと人間の国に入ることが出来た。
正直この人が、クーデターを起こしてくれたのが大きい。
俺ら魔族への偏見が薄れつつある。
後は明日からウィルを探しに行こう。
流石に怒るだろうか…
ウィルが受け入れてくれたら、ようやく夢が叶う。
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筆者が泣いて喜びます。
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