25話 「異変」
変態ジジイが人間の国に、
瞬間移動させてくれる。
なんだかんだ言っても、
ここのやつらは命の恩人だ。
行き倒れていたのを助けてもらい、
移動までサポートしてくれる。
この上ない厚意だ。
「お前等人間の国に着いた後どうするにょ?」
「ウィルと合流し、
もう一度、ウィンザードを探し出して止める」
「………そうかにょ」
妖精王は少し考え込み、頷いた。
「よいかにょ?
一度送ったら、向こうで何が起ころうが、知らないにょ」
俺らは頷く。
「じゃあいくにょ、
お前等手をつなぐにょ」
俺はテンとメルサと手を繋いだ。
自然と頬が赤らむ。
ここで思考が、別方向に向く。
いや、待てよ、
以前送られたときは、湯浴み場だったな…
突然すぎて、全く目に入らなかったが、
人間の裸がいっぱいだった。
もしかすると今回も…?
俺は目を見開いた。
一切の見逃しがないように。
今回こそは、あの花園を脳裏に焼き付けてやる。
テンとメルサは俺の顔を見ると、
苦行の表情を見せた。
そんなに、俺は分かりやすいだろうか…
「いくにょ」
と俺の肩に、しっぽを乗せた。
俺はそこから、一切の瞬きを制した。
目をあけろ。
全ての景色を、脳裏に焼き付けるんだ。
時空が歪む感覚。
ウィンザードが移動した時の感じ。
目の前の光景が歪み、
虹色に彩られる。
そしてまた、目の前の光景が歪んで、
視界が整うと、湯浴み場に居た。
目の前には…
いちもつ?
周囲の視線が、一気にメルサに集まった。
周りを見渡すと、裸の人間…
の男…
俺は絶望感に打ちのめされた。
「うおおおお! なんだ?」
「魔族がいきなり現れたぞ」
「て、敵襲か!?」
嫌なものが、脳裏に焼き付いた。
毎日散々見ては、使いどころが無く、
落ち込んでいた、日々を思い出す。
いや、今もそうだが…
「あ、悪魔の女もいるぞ」
「なんなんだ…みるなぁ」
俺らはパニック状態になった、湯浴み場をすぐに出る。
外に出ると、何度も憧れた人間の国の内部だった。
きらびやかな建造物
活気のある商店
そして美しい女性たち。
夢にまで見た光景は、まさに夢のようだった。
俺らを人間は見るとギョッとするも、
意外と騒ぎにならなかった。
俺らを見て手を合わせ、
頭を下げている者さえいる。
「あれ…何かおかしい?」
「どうしたオーグン?
人間の国が平和ってことは、
ウィンザードがまだ攻めてない、
ってことだろう?」
「いや、俺が前来た時は、
門の前にいるだけで、大騒ぎだったんだが…」
テンは少し顔を歪め過去を思い出す。
「…確かにそうだね…
僕を見ても、誰も襲おうとしてこない。
何か違うね…」
湯浴み場から一人、
半裸の傷だらけの男が出てきた。
テンが身構える。
そいつは知った顔だった。
嫌な思い出が蘇る。
「よぉ オーガ久しぶりだな。
いきなり風呂に現れた時、
おしっこ漏れるかと思ったぜ」
こいつは、
いつかの、テンを襲ったチンピラ兵士
でも、国には戻らなかったはず。
人間の掟は違うとはいえ、
そうそう許される者なのか?
「そう警戒すんなよ、
ってか必要ねぇだろ」
「…前の人間の国と、
大分雰囲気が違うな」
「ああ、そうだろう、
あれから戦争とクーデターがあったんだ。
トップが変われば、中身も変わる」
「戦争?クーデター?
ウィルは間に合わなかったのかしら?」
「ウィル…様…?
悪魔の可愛いねぇちゃん、
あんたは初めましてだが、
ウィル様は、あんたらと一緒に行動していたんじゃなかったのか?
…まあいい、
ここじゃなんだ、旧王宮で話でもすっか、
あいつも、あんたらには興味があるだろう」
状況が全く分からない…
戦争があったってことは、
ウィンザード達は攻めてきたのか?
ウィルが間に合わなかったってことは、
人間の力だけで、悪魔軍を追い払ったのか?
流石に、前回の苦戦を知る身として考えられない
それにクーデターとは…?
チンピラ兵士も前回と違って、敵意はなさそうだ。
何が起こっているのだろうか…?
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筆者が泣いて喜びます。
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恋愛に憧れるが運命を定められた姫を封印が解かれた暴君魔王が攫う物語です。
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