21話 「目無し」
目を覚ますと、
俺は泉にうかべられてる。
「ここはどこだ?
メルサ!?テン!?」
「めーざめたかにょーん」
どこからか、
とてつもなく、
ふざけた声が聞こえてくる。
「誰だ!?」
目の前に無数の光がホワホワと浮かび、
中心がパッと光ると、そこに現れたのは、
ムーでもクーでもない。
ふた回り位小さく、
目も見当たらない。
手足も無い。
彼らより長いしっぽを靡かせている。
そもそもあいつらは、
喋ることが出来なかったしな。
ふざけた話し方しなけりゃ、
優雅という言葉が似合うだろう。
良く分からないこいつは、
しっぽを靡かせながら、くるくる回りだし、
「わーしはーあ、
ババババーン
精霊王!!」
決めポーズなんだろうか、
顔を空へ向け、
目が無く、表情が無くても分かる。
自分に酔っている。
「他の仲間はどこ行った?」
こんなふざけたやつを、相手にしてる暇はない。
「さぁーにょーん」
「なに!?」
「そ、そんなに睨むなにょん
良く回りをみるにょん」
周りを見てみる。
俺が浮かべられていたような、泉が数個あり、
その中の一つ、
裸のメルサが浮かべられている、のを見てしまった。
すぐに視線を外したが、脳裏に焼き付いて離れない。
もっと見たい衝動に駆られるも、なんとか抑える。
俺も裸の一貫だった。
さすがに裸で興奮するのは、恥じらいがある。
静まれ俺の魂…
今はそれどころじゃない。
ウィルがピンチなんだ…
うぐぐぐ…
ダメだ、反応するな俺の身体…
こんな時は、逆の事を考えるんだ…
一番萎えた事…
親父が風呂上りに、
裸で腹踊りをしながら、母さんに迫った時の事…
「ふ、ふぅ…
おさまったか…
あんたが助けてくれたのか?」
「そ、そうだにょん、
なに葛藤してるのか知らないけど、
森の入口で倒れていたのを、ここまで運んできたにょ。
睨まれる筋合いなんてないにょん!」
裸のメルサを視界に入れないように、他の泉を見ると、
遠くの方で、テンも泉に浮かんでいた。
「そうか、ありがとう」
「素直なやつはすきだにょ」
「何で俺は裸なんだ」
精霊王は呆れるように、
「はぁ…お前はやはりバカだにょ、
少しは話が分かるやつだと思ったが、
やはりバカだにょ。
服は沈むにょ」
なんだこいつは…
バカバカ言いやがって…
「ここは精霊の泉、
バカでも分かるように言えば、
身体が治る泉だにょ、
まあ、バカは身体が強いから、すぐ目が覚めたが、
こいつらはまだ無理にょ」
「なっ、
俺らは早く、人間の国に行かなきゃいけないのに」
「だから無理にょ、
そもそも、バカとこいつらが一緒に倒れた時点で
こいつらが生きてたのが、不思議にょ」
「うっ…」
言われてみればそうだ。
俺とテンとメルサだと体力が違う。
俺ですら、きつかったのだから、
二人はギリギリだったのだろう。
「まあバカの中じゃ賢い方だにょ」
「さっきからバカバカって
お前もしかして、俺らの事何か知ってるんだろうな?」
「ドキン、
しししししらないじょん、
わわーしは賢いから、見ただけで、
そいつが馬鹿かどうかわかるのだじょ…」
精霊王が動揺すると同時に、
周りの小さな精霊たちも、
わらわらと庇うように動き出す。
「ドキンって…お前嘘つけないんだな」
「無礼だにょ!」
ちっちゃいこいつらは、以前の悪魔との戦争のとき、
魔法使いの人間が使役していたのと、同じ感じがする。
一体どうなっているんだ…?
「バカはバカなりにここで、
なにも考えず、ゆっくりして行くんだにょ、
こいつらもそのうち起きるにょ、
それまで余計な詮索をするなにょ」
そう言うとぶん!
と消えていってしまった。
と同時に空から、バサッと火の鳥が現れる。
こいつは見たことがある。
ウィルと居るところを、注意してきた鳥だ。
火の鳥は俺の前に来ると、プイっとそっぽを向く。
前、石をぶつけて気絶させた事を、根に持っているらしい。
バサッと飛び立っていった。
何しに来たんだろうと思っていたら、
プイッとこっちを向く。
「何をしている、
お前はここで過ごすつもりか、
客用の場所があるからついてこい 馬鹿」
なんともとげのあるような言い方。
まあ、あんときは俺も悪かったからな。
「前、小石をぶつけて、気絶させた事は悪かったな、
すまん…」
火の鳥の顔が余計に歪んだ。
あ、めちゃくちゃ根にもってらっしゃる…
俺はメルサの方を見ないように、火の鳥についていく。
ウィルの事は心配だ。
でもテンやメルサのことも大事だ。
俺はウィルの事でいっぱいになっていたようだ。
危うく全てを失うところだった。
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