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20話 「かいそう」




まずいことになった。

俺ら3人はこの辺境地に置き去りにされ、

ウィンザード達悪魔軍は、

人間の国へ侵攻の準備をしている。

ウィルも心配だ。


だが人の心配ばかりしてられない。

まさかの目的地で、何も得るものが無かった。

旅の備蓄が切れそうだ。


食糧はそこまで問題ではない。

数日食わずでも、死ぬことが無いことは、

以前の旅で、身に染みて分かっている。


しかし水はそうもいかない。

ここには海はあるが、水は無い。


海の水は刺激が強すぎて、飲めたもんじゃない。

ウィルが居れば、何とかしてくれるのだろうが。

俺らにはどうしようもない。


クーの所まで戻れば、水はある。

だがそこまで数日。


水の残りは、魔物の膀胱を処理した袋の中に、

それぞれ約一日分。


そもそも持ち運ぶと、腐りやすい水。

大量には、持ち運べない。

どう考えても持たない。



「お オーグンどうするよ…」


来た道は戻れない。

メルサもテンも、不安そうな顔をしている。

それほどまでに水は貴重なのだ。


「メルサ ここの場所は分かるか?」


「ええ…簡単な位置関係でしたら」


地面に今まで通ってきたところの位置関係を書く。


こう見ると思ったより、直線で進んできていない。

オーガの里に行くのに、30°程道がズレている。


「人間の国まで最短距離で行くしかないか…」


「そうですわね… 

大森林を突っ切る形になりますね。

何があるか分からないですけど」


「お、おいらソラから、

大森林には近づくなって、

教わってたんだけど…」


大森林、

オーガでも近づくな、と言われている。


精霊たちの住処。

他種族嫌いが、他に比べても顕著らしい。


足を踏み入れた瞬間、

何をされるか分からない。


「精霊と妖精って違うのか?」

「た、確かに! 

おいらたちが知っているのは、ムーとクー。

もしくは人間たちに、味方するもの。

そんな排他的な感じはしないよね」


「そうですわね… 

私もどんなところかは、分からないですけど、

他に生き残る手段がないのなら、

向かうしかありませんわね」



水を求め歩き続けて数日。



とうとう水が尽きた。


木々が生い茂っているのに、全く水源がない…

ここらは地下水脈なのだろうか。


かといって、地下を掘ろうにも、

ハズレを引いたら、それこそ自殺行為。

俺たちは動ける限り、前に進むしかない。


口の中はカピカピに乾き、

身体の中の、水分の動きが鈍くなっている。


頭に血が行かずボーッとし、

足が思うように動かず、

木の根に気付かず躓き、

何度もよろける。


せめてもの救いは、ここが砂漠地帯では無いことだ。


多少の湿気はあるものの、

明らかに失われる方が多い。


「おいらも何回も死にかけた事はあるけれど…」


「あまり話さない方が良いですわよ、 

口のなかの水分がなくなって、死にますわよ」


もうみんな限界が近い、

特に小さいテンは一番キツそうだ。


「だからこそさ、 

君らと死ぬのなら、 

もっと君らの事、知りたいじゃんか…」


「縁起でもねぇ…」


「人間らしい 思考になってきましたね」


「人間か…

ウィルに会って、人間そのものへの、憎悪みたいなのは、

無くなったかな…

ソラ…

おいらには同じ妖狐の、姉ちゃんみたいな…

育ての親みたいなのが、いたんだ」


俺は黙って聞いていた。

テンが人間の事好きじゃないのは、分かっている。

が詳しく話は、聞いたこと無かった。


「姉ちゃんって言っても、生まれは違う。

妖狐は普通の狐から生まれた突然変異。

生まれた瞬間から親に捨てられ、

さ迷っているなか、

ソラと偶々出会ったんだ」


メルサも神妙な面持ちで聞いていた。

共通する事が多いのか、

その辛さが分かるのだろうか、


俺は何だかんだいって、父もいて母もいる。

かなり恵まれて育った。


「この世に妖狐がどれだけ生まれたのか分からない。

でもほとんどの妖狐はすぐに死ぬだろう。

突然変異は生き方を知らず、

生きる意味もなく死ぬ…


だがおいら達は違った。

おいら達は二人になった。


繋がりが出来ると、生きる意欲が湧いてくる。

それこそ生きる希望が生まれる。

もう一人になりたくないし、

一人にさせたくないと、思うようになる。


おいら達は生き方を探った。


言葉を知るために、人の子供になりすまし、

食べ物を得るために、弱き者になりすまし、

情報を得るために、女になりました」


もう俺の頭はあまり働いていない。


何を言っているか分からないが、

テンの感情だけは伝わってくる。


「そらはおいらと違って強かった。

心も身体も頭も、、

だから強い魔物や魔族を狩っていた。


逆においらは弱かった。

だから自分より弱い人間を狩って生きていた」

テンの目も虚ろになってきている。


「たまにお互いの戦利品を見せあうと、

おいらの方が良いものが多かった。

結局二人して、人間を狩る事となった。


おいらたちは幸せだった。

初めての信頼できる仲間との生活。

血のつながりではない。

この世に二人だけの種族…


絆は血のつながり以上の物だった。


だが楽な事は続かなかった…


人間がおいら達の存在に気付き、討伐隊を組んだ。


弱いおいらは簡単に捕まってしまった。


おいらは殺されてしまうと思った。

でも、違った…


人間の恐ろしさを知るのは、ここからだった。


奴らはおいらを殺さずいたぶった。


死なぬ程度の暴力。

その時は勝る苦痛はなかったが、


それすら間違いだった。

奴らはおいらを磔にし、血を四方八方にばらまいた。


そんなことをされたら、ソラも気付く。


ソラは激怒しながら現れた。

怒りに身を任せ、魔獣と化し、

おいらの回りの人間を殺しまくった、


おいらはソラに合わせる顔が無かった。

自分の弱さゆえに捕まり、

いつもおいらはソラに助けられてばかり。


おいらは泣くことしか、出来なかった。


ソラは一瞬で周りの人間を殺すと、

おいらを磔から降ろし、抱き締めた。


『テン…生きろ』と



おいらが顔をあげると、

ソラの頭に矢が刺さっていた。

ソラは絶命していた。

矢の方向を見ると、物陰に一人の人間が隠れた。


おいらは何が起こったのか分からなかった。

頭の中が真っ白になった…

ただソラの最後の言葉だけは、

と思ったのか…


おいらはソラの遺体をそのまま置いて、

その場から逃げ帰ってしまった。


数日普通に過ごした。

寝床に帰り

保存していた食物を食べ

睡眠をしていた。


他の時間は覚えていない。


おそらくボーッとしていたのだろう。


数日後保存していた食料が無くなり、

狩りに行かなきゃと、思ったところで我に返った。


ソラはもうこの世にいない。


ソラは人間に殺されたのだと理解した。

おいらは使われ、

罠に嵌められた。


そしておいらは大好きだった、ソラを見殺しにした。


おいらは自分に嫌悪を、

人間に憎悪を抱くようになったんだ…」




俺たちは長い夢を、

テンの壮絶な記憶を、体感している感じだった。


身体が乾き過ぎて、涙など出ない。


だが、なんとも言えない感情が湧き上がってくる。

テンの後悔と虚しさが、自分の事のように思える。



いつからか知らぬが、俺たち三人は地に伏していた。




「良かった」と思ってくださったら

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筆者が泣いて喜びます。




⚫︎囚われ姫は魔王に救われる

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恋愛に憧れるが運命を定められた姫を封印が解かれた暴君魔王が攫う物語です。

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