表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/54

19話 「おもわく」



心なしか、ウィルを女にしたような、

整った顔に、人間特有の肌色のすべすべした肌。

露出度は高くないが、

なんともそそられる、騎士のような姿をしていた。


綺麗で、親近感を沸くような女…


俺は女を殴るのか…?

だが、今までの旅は…

ウィルとの約束は…

アキナの思いは…


そしてこの人、ウィンザードと言った?


俺の頭の中が、ごちゃごちゃと考えていると、

彼女が口を開いた。


「オーグンさん、

ゴブリンの村では、迷惑をかけてしまいましたね…

ですが…」

彼女の否定が入ったところで、

俺の拳が、迷わず振り下ろされた。


ゴブリンたちは、何も悪いことをしていない。

ただ利用され、傷つけられた。

言い訳などが、通用するはずがない。


しかし、俺の拳は空を切った。


「すみません、オーグンさん、 

私にはもう、殴られる身体が無いのです」

彼女が台座に目をやる。


それは台座ではなく、棺桶だった。


中にはかなり年のいった、人間の女が入っている。


「私は死に際に、魔法で精神体を魔道具に移し、

この結界によって、生きながらえているのです。

物質的な力は、一切ありません」


「なんでそこまでして、生きながらえるんだ?」

次に口を開いたのは、テンだった。


「白い妖狐さん、 

私たち人間はあなた方と違い、

短すぎる寿命があります。

それだけでは私の…

いや、人間の罪は、積み重なるばかりなのです。

罪は死で清算されるわけではないのです」


「人間の罪?」


「はい。

人間はこの大陸には、存在しなかったのです」


「ああ、それはイルスから聞いた」

俺がそう言うと、


うれしいような

懐かしむような

申し訳なさそうな

複雑な感情が入り混じったような顔をした。


「イルスですか…

彼もまだ生きているのですね…

彼は今の現状をなんといっていましたか?」


『人間が何をしようと、それは自然のサイクル、

俺らは結局その中に居るんだ』と

彼女はそれを聞くと、ふふふっと笑った。


か、可愛い…

俺は彼女を、殴ることは出来ないだろう。


悪いアキナ…

もう俺は君に顔向け出来ない。


「数千年たっても、変わらないのですね。

オーガスタは死にましたか?」


「ああ、俺のじいちゃんは死んだ」

じいちゃんやイルスの話…

この人がイルスの言っていた、ウィンザード。


まさかとは思っていたが、本当に悪魔王だとは。


「そうですか あなたがオーガスタの孫ですか。

少し似ていますが、そこまで面影はないですね」

そう俺を見つめる彼女の目は、

普通の綺麗な女性の目だった。


外見だけなら、めちゃくちゃど真ん中ストライク。


血筋だけじゃない。 

それ以上に、ウィルによく似て、透き通っている目。


彼女が悪魔王と呼ばれる印象とは、程遠く感じる。


もちろんウィルがタイプなんてことはない。

あいつは男だ。


けれど本当に、彼女が黒幕なのだろうか…?


「武神ウィンザードなら、なぜ人間を滅ぼす?」

確かに知りたいことは、山ほどある。

でも、世間話をしに来たんじゃない


悪魔王を殴るという、アキナとの約束は守れなかったが、

ウィルとの約束は守らなくては。


「裏切者の私をそのような名で呼ぶとは…

やはり人間は薄汚い…

ですが、私もこうして、生きながらえている。

薄汚いもの同士、

決着をつけなきゃならないのです」


俺にはその意味が分からなかった。

人間は美しい。

俺は今でもそれを感じている。


「悪魔王ウィンザード、

人間の国への襲撃を辞めるんだ」


「それは出来ません。

人間はこの地に居てはならない存在です」


おれの拳に、力が入る。

同時に眷属たちが、臨戦態勢に入り、

白い獣人が飛び込んできた。


「オーグン!やる気か!

今やるなら早くていい!」

白虎は飛び込み際、

腰に掛けた二本の白い剣を抜き、振り切った、


速い…


俺は腕で、顔と首を守る。


白虎が振りぬいた剣には、血がついている。

俺の腕には、傷がついていた。

すぐ反撃しようにも、

俺の拳の届く範囲には、すでに白虎は居ない。


「おー白虎やるのぉ」


鳳凰の火の羽、

周囲に朱色の炎が纏われ、

『ブレイブウィング』

羽ばたくと、

それらが細い矢のようになって、向かってきた


「とったぁあああ」

鳳凰が無邪気に叫ぶ。


「?」

しかし攻撃は、俺の横を通り過ぎ、

炎の矢は、後ろの石壁に深く突き刺さり、

石を焦がした。


直撃したら、かなりダメージを食らうだろう…

魔力はイルスほどではない。

凝縮具合もウィルほどではない。

だがそれらと比べられるほど、凄まじい魔法だ…


「むむむ?」

鳳凰は不思議に思い、周囲を見渡す

テンがやったんだ。 

テンは俺の後ろで、知らん顔している。


メルサも腰を落とし、周囲を警戒する。

彼女に玄武が近づく。


「儂らと同じ悪魔のお嬢ちゃん。

お主も戦うのか…?」


そう言いながら、のそりのそりと近づく玄武に、

メルサは同じペースで、後ずさりをしていく、


「やめなさい」


ウィンザードがそういうと、

眷属たちはピタリと動きを止め、

初めの位置に戻っていった。


「こちらから仕掛けて申し訳ないのですが、

私たちはあなた方と争う気はないのです、

普段は外の接触が無いので、

あなた方の強さに、気圧されているのでしょう」


強さ? 気圧された?

いや、気付いたら、剣を振りぬかれ、

ダメージを負う攻撃を見せられて、


そこまで大差はないはずだが…?


「私たちには大義があります

私には責任があります

義務があります

この地を汚してしまった責任が、

この地から、人間を滅ぼさなくてはいけない義務が」


人間を滅ぼさなくてはならない、

彼女の何度も繰り返す、極論的な言葉。

俺にとって一番なってはならない事。


それを起こそうとしている、彼女の言葉が。


俺の今までの、全ての悩みを吹っ切らせた。


「ウィンザード! 

俺にとっては、やっぱりお前が黒幕だ。

お前のおかげで、俺の決意も固まった!

お前らが作った他種族不可侵。

俺がぶっ壊す!

俺は全員が、楽しく笑っていられる世界がいいんだ」


この数年、多くの人たちと関わることで分かった。

生物は誰しも幸せを求めている。

不幸を求めてる者なんていないのだと。


自身の幸せを守るために、争いが生まれる。


ウィンザードにも、色々あったのだろう。


もし俺も、オーガの里が無くなり。

生きるために、

他に移り住むってなったとしたら、

必ず争いは生まれる。


自身の幸せを守るための争い。


もしかしたら、

ウィンザードのようになるかもしれない。


ウィンザードはずっと楽しかったのだろう。 

じいちゃんとイルスといる時間が。


そのせいで世界が狂ってしまった。

大切な仲間達の土地に、不幸が生まれた。


だから責任を取ろうとしている。


俺はそうはならない。

ウィルが、テンがメルサが、皆がいる。


弱いながら悪魔と共存しようとしている、アキナがいる。


ウィンザードはふっと顔を緩めたが、

すぐに引き締めた。

「甘い…

誰かが笑えば、誰かが泣く、

これが世界の法則」


俺も顔を引き締めた。

「俺は一人じゃない、

ウィンザード!

お前は一人で抱え込み、

対等に話して、喧嘩出来る奴がいない。

間違ったら、咎めてくれる奴が。

一緒に悩む奴らが居ない」


眷属たちが前のめりになったのを、

ウィンザードが制す。


ウィンザードは、言葉を飲み込むように俯き、

強い目線を俺に向けてきた。


「確かに今はそうかもね、 

忠告ありがとう、

逆に一つ忠告してあげる、

オーグンあなた人間をなめ過ぎよ、

今でこそ大人しくしているが、

奴らの思想は人間第一主義。

自身の幸せなら、他の排斥を厭わない」


「ここにはいないが、

ウィルはそんな奴じゃない」


「ウィル…?」


「なんだ、あんた情報通のくせに知らないのか、

『不吉な妖精』を連れた王子ウィルって、有名だぞ」

テンが割って入ってきた。


「……もちろん知っていますとも」

ウィンザードはポロリと涙を流す。


「やはりあの子ですか、

それにあなたの耳飾りは、 

やはり…

時は来たのですね。

もう一度聞きます。

あなた方は魔族と悪魔、 

私たちと同類、

協力する気はないのですね」


「ああ、あんたを止めると、

ウィルと約束したからな」


「残念です…

ここまで来ていただいたのは、 

万が一、あなた方に邪魔されないため…

藍っ!」


「なにっ!?」

建物内の空間が歪んでいく、

目の前のウィンザードや、眷属たちも。

それなのに俺らだけは、形を保っている。


まさか…


そう思った時には、俺ら三人は外にいた。


「やられた…

あの大きな建造物を、

瞬間移動できる、魔法があるなんて」


「オーグンどうするよ…?

ウィルが心配だけど、

今から戻ったら、すべて終わってるかもしれないぞ」


まんまとウィンザードの術中にハマってしまった。

こんな僻地に取り残され、

しかも戦争が起こる前に、帰らなくては…


全てが後手に回っている。




「良かった」と思ってくださったら

是非ブックマーク、★★★★★をお願いします。

筆者が泣いて喜びます。




⚫︎囚われ姫は魔王に救われる

https://ncode.syosetu.com/n1925ii/


恋愛に憧れるが運命を定められた姫を封印が解かれた暴君魔王が攫う物語です。

勇者が姫を救おうとするが、姫は運命か自由かの選択を迫られます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ