12話 「溶岩遊泳」
数百メートル離れた所に、竜巻が出来ている。
オーガの女戦士たちが、なすすべなく。
黒龍の一羽ばたきごとに、宙を舞っていく。
ウィルが魔法を打とうとする。
俺は手でウィルを制した。
俺は肚いっぱいに息を吸い込み、叫んだ。
「イルゥゥゥス!!」
暴風で俺の大声がかき消される。
イルスまで届かなかった。
その辺に風でコロコロと転がっていた、
サッカーボール大の石をとり、
振りかぶり、
イルスに全力で投げた。
石は唸りをあげ、暴風を切り裂き、
イルスの頭に直撃した。
頭を少し揺らし、
暴風が止まった。
石が飛んできた方向に、
にらみを効かせた。
額には少しの血がにじんでいる。
「イルゥゥスてめぇ!
嘘つきやがったなぁ!!」
俺を視たイルスは、
それまでが、遊びだったかのように、
怒りの表情を表した。
「オーグン…貴様…我との契りを忘れたのか」
そういうと、頭を仰け反らせ、
口から白い炎を吐いた。
あ、ヤバイ…
と思ったら、目の前に金属の盾が現れた。
ウィルだ
「むっ?」
金属の盾は縁を溶かすも、
イルスの炎を防ぎきった。
「この金属は1000度を越さないと、
溶け出さないのに、
なんて炎だ…温度が高すぎて、白光するのか」
「はっはは!
我の炎を防ぎきるとはやる…」
イルスが話をしている途中で、止まった。
メルサだ。
メルサも硬直し、
目の色が紫色に変わっている。
手の魔法陣が赤く発動し、
痛々しそうに、
メルサの身体を縛り痛めつける。
がそれも一秒経たずで、解けた。
「はぁ…はぁ…ウィルちゃん…
魔法が発動出来ないんじゃなくて、
発動すると、術者を痛めつけるって、
ホントいい趣味しているわね…」
「我が話している時に、止めるとは、
何たることか!むっ?」
その間にテンがイルスの前に立ち、
印を結ぶと、
イルスの瞼がウトウトと、
落ちかかっていた。
しかし首を振り、
テンとメルサを一羽ばたきで吹き飛ばす。
ウィルがテンを、
俺がメルサをキャッチし、
岩陰に寝かせた。
「百年寝てた我を、また眠らそうとするなんて、
なかなか強力な術を使うじゃねぇか」
俺ににらみを利かせてきた。
「よぉ オーグン、
貴様、我との約束忘れておろうか、
滅ぼしてやろう」
「イルス、
てめぇには恨みがあんだ、
ぶっ飛ばしてやる」
となりで聞いていたウィルは、
下らないとため息一つついて、
我関せずとばかりに、
テンとメルサのところまで、
下がっていった。
いやいや、お前は知ってるだろう?
下らぬ事では無かっただろう…?
俺はイルスに、だまされていたんだ。
イルスに向かって、石を全力で投げ続けた。
空中から遠距離で攻撃されたら、分が悪すぎる。
イルスは石をうざったく感じ、
巨体で突進してきた。
イルスの突進に合わせ、
俺も突進した。
俺の肩の角が、
イルスの頭に刺さる。
が、身体の大きさは、イルスの方が格段に上。
イルスの突進が止まること無く、
そのまま空中に舞い上がり、
頭をブンっと振る。
イルスの血飛沫が舞うとともに、
俺は角が抜け、
地面に叩きつけられた。
イルスは頭を大きく反らした、
まずい、白炎が来る。
俺は的を絞らせないように、走り出した。
イルスは俺が走った後を追うように、
白炎の軌道を変えていく。
気がついたら、周囲を白炎で溶けた溶岩で、
閉じ込められていた。
しまった……
「ウィルちゃん
オーグンちゃんを助けなくていいの?」
「ウィル!!オーグンが絶体絶命だよ!」
とウィルのローブの裾を引っ張っている。
「言ったでしょ?下らない事だって、
メルサもやられたことあるやつだよ」
ウィルは傍観者を決め込んで、
楽しんでいた。
それを聞いて、メルサは安心したのか、
「あら、どれの事かしら?」
と少し前の心配がなかったかのように、
落ち着きだした。
今まで嫌悪だった二人が、
楽しそうに会話してるのは、良いよ…
でも、自分で言うのもなんだけど、
かなりの境地だぞ…
イルスは再び、大きく首を仰け反らせた。
来る
俺は決死の覚悟で、
溶岩の中に飛び込んだ。
「あら…」
飛び込む瞬間、
傍観してた奴らが、
目を丸くしてるのが、目に入った。
熱い、
熱すぎる。
溶岩が溶けた砂糖のように、
身体にまとわりつき、
遊泳など、とても出来たものじゃない。
しかし、まだ熱いと感じれる余裕がある。
死ぬほどではない。
溶岩の底、
まだ岩を保っているところを、
足場に地表に出れた。
地表に出ると、
身体にまとわりついてた溶岩が、
皮膚にくっつきながら固まった。
熱い岩と焦げた皮膚を剥がすのは、激痛だった。
が、剥がさなくては。
重りをつけているようなもの、
耐えながらべリべリと剥がす。
イルスとは距離を取られてしまった。
しかも重力が作用する真上に、
石を投げたところで、前ほどの効果は無いだろう。
落ちかけの太陽を背に攻撃されたら、
反応が鈍るだろう。
絶体絶命だ、
何も策がない。
ふとウィルたちをみた。
そこにはテンがいた。
そうだ、
別に何かルールがある戦いじゃないんだ、
何も真っ正面からイルスを、
引きずり降ろす必要は無いんだ。
俺は岩を剥がしながら、
少し乱れた呼吸をわざと余分に乱し、
片膝ついてうつむいた。
イルスも白炎を連発し、
空中に飛び続けていた。
大分消費していたのだろう。
次の一撃
イルスはなるべく、自分の消費が少なく、
相手にダメージを与えるべく、
真っ正面から突っ込んできた。
太陽を背にすること無く。
俺はゆっくり顔を上げた。
狙いどおりというのを、悟られないように。
イルスは自分の射程圏内に入ると、
グルンと一回転し、
全体重と、落下エネルギーと、縦回転エネルギーを、
全て尻尾に乗せた一撃を放ってきた。
俺は一歩横にずれるだけでかわせた。
見えていた?
否、来る場所さえ分かればかわせる。
しかもわざわざ威力を高めるためにm
一回転したんだ。
その瞬間に動けば、見えなくともかわせた。
尻尾は凄まじい威力で、地面にめり込み。
大地を揺らせた。
が止まってしまえば、
ただの尻尾である。
尻尾を捕まえた。
「貴様、図ったな!
ただのバカはだった貴様が、いつの間に、
そのような知恵を身に付けやがったのだ」
イルスはじたばたするも、
突進のような、体重差を使わせない、
単純な力なら、俺の方が上である。
「人間と妖狐…悪魔か……
我は人間も悪魔も好かん!
オーグン貴様我との契りを忘れて、
良くものうのうと生きておるな」
契り…
忘れた事はない。
親と友と性器は大事にしろ
なんだかんだイルスには
大切なものを教わった
だが、俺のイルスへの怒りも、その事だ。
ゾクッと背筋に寒気がした気がした。
「貴様 我が百年前に目覚めた時に、
貴様の祖父は健在だったのだろう?
だが、今回目覚めた時に、
貴様の祖父の気配が無くなっておった。
我と貴様の祖父が親友と知ってて、
危機をなぜ我に知らせぬ?
家族と友は大事にしろと、言ったろうが!?」
「それはあなたが眠っていたからですよ」
振り返ると、いつの間にか母がそこにいた。
太った父が遠くで走ってくるのがみえる
「貴様は?」
「オーグンの母です
あなたの友、オーガスタは義理の父にあたります
あなたの事は伝承、
そして父の話から、伺っておりました」
「そうか、では何故ゆえ我に知らせないのだ」
「だから何度も何度も、仰っていますでしょう
あなたは眠っておられたのです。
起きてすぐ使徒を送っても、話も聞かず
挙げ句の果てには、
この村に襲ってくるなんて」
母の怒りの気迫が膨れ上がる。
「お、おお…左様であったか…
我が眠っている間に死んだのか」
イルスがたじろぐなんて…
母は一体何者なのだろうか?
「そうか、でそなたが、オーガスタの跡継ぎか?
名はなんと言う?
オーガスタの話を聞かせてくれぬか?」
「ええ、もちろんです……が
私はただの妻、
義父の跡継ぎなんて、
大層なものではございません。
それにその姿では、村に入れませんので」
「おーそうであったな」
大きかった身体がドンドン凝縮し、
1mくらいの可愛い龍になった。
お前、そんな事も出来たのか…
「あなたたちもいらっしゃい。
息子の帰還ですもの、宴としましょう」
ここでようやく父がきた。
「はぁ‥はぁ……どうなった?」
親父…せめて、少し腹ひっこめてくれよ…
「良かった」と思ってくださったら
是非ブックマーク、★★★★★をお願いします。
筆者が泣いて喜びます。
⚫︎囚われ姫は魔王に救われる
https://ncode.syosetu.com/n1925ii/
恋愛に憧れるが運命を定められた姫を封印が解かれた暴君魔王が攫う物語です。
勇者が姫を救おうとするが、姫は運命か自由かの選択を迫られます。