9話 「こころのつっかえ」
ゴブリンの村を後にしたオーグン一行、
悪魔軍幹部のメルサを捕虜?にして、
ゴブリンの村を貶めた。
悪魔王をぶん殴るべく、
本拠地を目指すのであった。
が…
「はぁー…
女の子の前で、
あんな情けない姿曝すとは…」
決心したとはいえ、
今は誰かをぶん殴るような、
気持ちでは無かった。
「そんなか?
あの程度ならおいらは日常茶飯事だったぞ」
「君のそれは罠として使うんだろ?」
「へへっ まあそうだけどな」
「今夜こそあれを使うときじゃないのかい?」
ウィルとテンは気楽に話している。
てか、仲良いな。
「あらー?
強い男が落ち込むのって、
女からしたら芸術的で魅力的よ」
「君は男を都合の良いように、
操るために寝るんだろ?」
「ふふっ、
女は大抵はそうだと思っているけど…?
誰も皆、あなた程の情熱はないわ」
その言葉に、ウィルは眉間にシワをよせ、
殺気が膨れ上がる。
「ふふふ 冗談よ、
酷いことばかり言われてるから、
からかってみただけ。
魔法を封じられた女に、
物騒なもの向けないで下さいな」
ウィルは珍しく、顔を赤くして興奮してる。
テンが宥めている。
雰囲気が最悪のまま夜を迎えた。
いつもはウィルだけ、
土魔法で自分のテントを用意し、
俺とテンは夜空に雑魚寝だったが、
ウィルは四人分のテントを作った。
今日はとてもありがたかった。
いつものように騒ぐ気にもなれない。
暗くなったら、
各自ゴブリンの村から貰った食糧を食べ、
テントに入った。
ぼんやりテントの低い天井を見ていた。
火の明かりに合わせて、
陰影を繰り返す天井は時間を忘れさせた。
俺は何のために、
世界を転々としているんだろうな…
何時が過ぎただろう。
ふと、入り口に気配を感じ、
視線だけ移すと、
いつぞやの尻尾のある白髪の、美しい女性が立っていた。
前は気絶していてわかならかったが、
見いってしまう程、別格の美しさだった。
彼女は美しく白い長い髪をかきあげ、
俺が寝ている横に座り、
俺の頭を持ち上げ、
膝枕のようにした。
肌は白く透き通っていて、
メルサより筋肉も脂肪も少ない脚は、
意外に心地が良かった。
そして不思議にも、
一切の性的感情を抱かなかった。
俺はアキナの事がトラウマになってしまったのだろうか…?
彼女はテンの友達、
下手したら恋人だからだろうか。
安心感?
空間を彼女が支配しているように感じる。
フワフワと雲に乗っているような、
重力が無い感じだ。
「悩みがあるのかい?」
彼女の言葉は俺の鼓膜から脳まで、
何も遮るものが無いかように、
深くまで入り込んだ。
なんでだか分からない。
ただ無為反射的に、言葉が口からあふれてきた。
ほとんど初対面のはずの彼女に、
懺悔するかのごとく、
すべての感情を吐き出された。
アキナが好きだったこと。
おそらくアキナも好いてくれたはずなのに、
一緒に居られなかったこと。
自分の強さは、
何のためにもならないこと。
メルサのこと。
悪魔の事。
自分が情けなかったこと。
ただあふれてくる言葉には、
全く一貫性がなく、
俺自身も何が言いたいのか、
何がしたいのか分からない。
感情と欲望の区別のない言葉は、
理解が出来るような言葉ではなかった。
彼女は黙って、
それらを目を瞑りながら、
かみしめる様に聞いていた。
俺の言葉が途切れた後、
彼女は続けた。
「君は以前まで女を見れば、
欲望のまま突進してた。
それが今は女の子と仲良くしていいか迷う。
贅沢な悩みになったじゃないか。
その悩みが君の夢に近づいてる証拠だよ。
贅沢な悩みを喜びをかみしめるがごとく、
悩み続けなさい」
まるで俺の心を過去を、
見たかのような言葉だった。
俺の心が晴れ渡った。
悩んで良いんだ
情けなくて良いんだ
そう考えると、今回の事は、
悪い事ばかりではなかった。
初めて好いて好かれての関係を築けた。
力の無能さにも気付けた。
メルサという女性も加わった。
そして悪魔王の所に向かっている。
ちゃんと前に進んでいる。
自然と瞼が閉じていた。
薄れる記憶の中、
「今回だけだからね」
と頬にキスをされたような気がした。
翌朝すっきりしていた。
昨夜のは夢だったのだろうか、
あの女の人は何者だったのだろうか、
それにしても綺麗な女性と、寝床で二人きり。
なのに俺はすぐ寝てしまった…
惜しいことをした。
テンの恋人でないと知っていたのなら、
性的興奮もあったのだろうか。
テンにちゃんと確認を取っとこう。
悩んでも情けなくても良いんだ。
そう思わせてくれたのは確かだ。
心のつっかえをとってくれたのは確かだ。
彼女も俺にとって特別な人、
いずれウィルにも紹介したいし、
今度会うことがあったら、大事にしないとな。
テントから出ると、
相変わらず、
ウィルとメルサの険悪な雰囲気が漂っていた。
「お早う!」
以前と同じような大きな声で挨拶した。
皆の視線が集まる。
「おはよ」
「あら、おはよう」
「おはよ、オーグン
元気になったんだね」
テンが険悪な雰囲気に耐えかねたのか、
トコトコと走って来た。
「ああ、昨夜、
お前の友達のお陰でな!」
そして聞かなきゃいけないことがある。
俺はテンの肩を寄せ、
耳元で小言で聞いた。
テンはビクッとしながらも、
耳を立てた。
「お前の知り合いの彼女は、
お前の恋人では無く、
友達…だよな?」
それを聞いたテンは焦って、
チラッとウィルに目配せをすると、
ウィルは呆れたようなため息をついた。
「そ、そうだよおいらの友達さ!」
「お名前はなんと言うんだ?」
「え?な、名前!?
そうだな…む、ムーンさ」
「ムーンか!素敵な名前だ!
また会えるのか?」
「さあ、ど、どうだろうね、
気まぐれだから、
僕もいつ会えるか分からないからね」
「そうか、会ったらありがとう、
と伝えておいてくれ」
「あ、あ伝えておくよ」
「あら?浮気の相談かしら?」
メルサが胸元をはだけさせ、
誘うように割り込んできた。
ウィルが眉間にしわを寄せる。
「メルサ、そうゆうのはやめてくれ
お前が俺に取り入ろうとするのは、
ウィルに始末されるのが心配なんだろう?
だからウィルも手を出さないでくれ、
俺もメルサにはなにもしない」
二人は俺の盛り上がった所を、
不安そうに見ていた。
良かった、トラウマになってなかった。
…じゃなくて。
「分かってる、
ちゃんと頭で止める。
俺はちゃんと好いて好かれての関係で、
女の子と仲良くしたい。
都合のいい男にはなりたくない」
「…」
「分かりましたわ、
私も控えめましょう」
そう言うと、メルサは着衣を正した。
それを見てウィルも、
「分かった」
とだけ言った。
ウィルもまだまだ若い、
子供っぽいところも残っているんだな、
と微笑んでいたら、
心を読まれたのか、
ウィルに魔法を浴びせられた。
「さて、改めて、
悪魔王をぶん殴りに行こうと思うのだが…
悪魔軍の本拠地は、
魔族側の奥の方にあるんだよな?」
「……おそらく」
間がちょっと気になるが、まあいいか。
「せっかくだし、
道中のオーガの里に帰ろうかと思う」
「オーグン故郷が恋しくなったんだ、
アキナの影響だね」
俺は恥ずかしくなって顔を赤くした。
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