この世界とあの世界
出したその声は自分でも驚くほど掠れていた。
そして上手く発音もできていない気がした。
「しばらく喋っていなかったからね」
耳のとがった男の子が微笑みながら言った。
ただいまと言ったものの、わたしには彼らが誰だかわからない。
「心配しないで!僕らはこれから一緒に冒険をするんだよ」
驚いた。
猫が喋った。
よくよく見れば、小人に妖精…あれは大男かな…多分耳のとがった男の子はエルフだろう。
なんにせよあの世界にはないような生き物たちがいるから、猫が喋っててもおかしくは無いのかな。
…………
あの世界ってどの世界のことだろう。
わたしが少し困っているとまた猫が喋った。
「改めて僕たちのことを紹介するね。僕はシュウ。そっちのエルフはソラ。小人のハル。双子の妖精のユキとアメ。大男のタイヨウだよ。」
「あの…」
私が声を出すと、みんなこちらを見た。
「なんでわたしがしばらく喋ってなかったって…」
なんだかやっぱり上手く喋れない。
声がガサガサでなにか飲み物が欲しい。
もう何年も飲んでないみたいに喉がかわいていた。
「君はずっとここに住んでいたんだよ。覚えていないかもしれないけど。僕たちはずっと一緒にいたんだよ」
「だけどカイジュウが現れて、君の声と大事な物を奪っていっちゃったんだ」
小人のハルが言った。
「カイジュウはとても恐ろしくてね、僕たちは何も出来なかったよ。君が壊されていくところをずっと見ているしか無かったよ」
ハルが申し訳なさそうにしていると、大男のタイヨウが屈んでハルの頭をちょんちょんと指先で撫でた。
「だけど君はまた戻ってきてくれた。自分で声を取り戻して、またここに来てくれた」
「だけど、わたしはーーー」
そもそもわたしってなんだったんだっけ。
なんでみんなと一緒にいたのに何も覚えていないんだろう。
言葉に詰まった。ただ涙が出てきた。
そうすると妖精のユキとアメが飛んできて私の肩に座った。
よく見ると2人はとても可愛い顔をしていて、お人形さんみたいだった。
羽はエメラルドグリーンを薄くしたような色をしていて、キラキラ輝いて見えた。
「仕方ないのよ。あなたは声と記憶、そして感情も壊されてしまったのだから」
「でもあなたは何も悪くないの。全部悪いのはカイジュウなのよ」
わたしが理解出来たことは
みんなは以前からわたしの仲間であるということ。
あと記憶が無いから以前のことを覚えていないということ。
すべてが衝撃的だったけど、目の前の出来事を信じる他なかった。
目を瞑り深呼吸をして、少し落ち着こうと思った。
だけど次に目を開けたらそこに彼らはいなくなっていた。