第2話「説明回!はい、ここテストに出るぞー」
「ここよ!」
ブルーに案内されてやって来たのは色鮮やかなステンドグラスが印象的な喫茶店だった。
「いらっしゃ・・・おや博子さん」
「叔父様、こんにちは」
中に入ると渋いマスターがコーヒーカップを磨きながら出迎えてくれた。室内なのに何故かマスターはサングラスをしている。ちなみに私たち以外の客はいないようだ。
「叔父様?」
マスターはカップを置き、丁寧にお辞儀をする。青のベスト姿が実に決まっている。
「叔父の千帝 之吉です」
キラリとグラサンが光る。
「そういえば自己紹介がまだね、座って話しましょ」
私達は4人テーブルに私とブルー、友美と少女が向かい合うように座った。
「まずはレッドから!」
ブルーが目を輝かせて私を見つめる。
「レッド?あ、私か。中等部2年、真直 真歩」
うう、レッドだって自覚するの辛い。
「同じく中等部2年ー茂武 友美でーす」
「そのセーラー服、聖東学園の子よね。私は高等部2年の千帝 博子。真歩ちゃんはレッドだから私の事呼び捨てにしてね!」
「初対面で呼び捨て!?」
ん?千帝博子・・・聞いた事あるような。
「あー高等部の生徒会副会長と同じ名前ー」
「そうだそうだ、って副会長!?」
「ええそうよ」
3人の自己紹介が終わった後、少女の方に顔を一斉に向ける。
「ワタクシの番ですわね」
少女は箱を開けてから話し出した。
「ワタクシはエルドラド王国の女王エルヴェラですわ」
「女王?」
「ワタクシ、今は魔法で体を小さくしていますの。本来の姿は5人の子供と3人の孫がいる老婆ですの」
「onファンタジックロリババ」
「ロリ・・・?こほん、そして、その子どもたちがこの子達ですわ」
箱の中からファイア、ウォルタ、亀を模した子、白虎を模した子が飛び出してきた。
『長女ファイアだぜ!』
『・・・次男ウォルタ』
『三男ウィンディです』
『じっ次女の、さ、サンダー』
ファイアとウォルタは頭上を飛び回り、ウィンディとサンダーはテトテトとテーブルの上を歩き回る。
「ちょっと待って」
博子はワナワナと震え出す。
「何で4体なの・・・長男、長男は?」
「王子として国に残っていますわ」
「嘘・・・偶数からのスタートだなんて有り得ないわ!」
博子は両手で頭を抱え項垂れるようにテーブルに頭を打つ。あからさまに落ち込んでいる。さっきまでのテンションはどこいった?
「いや、それよりも。エルヴェラさんの子供なのになんで人間じゃないの?」
「それについては、これから話しますわ。ワタクシ達は実は異世界から来ましたの」
「「異世界!」」
何とも魅力的な言葉。私と博子は食い気味だ。
「それで、異世界を渡る際ゲートを通りますの。異世界へ渡るためには多くの魔力を消費しますわ。ゲートを通る度に体の外側から魔力が削られ、魔力が少ない者であればゲートの中で肉体ごと消滅してしまいますの。そこで身を守るために、ワタクシは体を小さくし魔力を防御膜に回し、そして子供たちは魂を魔装に入れ込み、
ゲートで消滅しないようにしたのですわ。こう見えてもワタクシ、魔力量は国1番なのですの」
『まあ、母上は量が多いだけで、使える魔法少ないんだよなあ』
「ファイア」
『はい』
飛んでいたファイアと何故かウォルタまでテーブルの上に着地した。
「情報量多・・・」
「分かって頂けるのは少しずつで構いませんわ」
「あ、あとこれだけは絶対聞きたいんだけど」
私は食い気味に前に出る。
「変身姿どうにかならない?」
「どうにかとは」
私は鞄からキョムランが表紙に描かれた自由帳を取り出して机の上に置いた。
「この子達みたいな感じになりたいの!」
「え、どうして!?そそままでいいじゃない!」
なぜか博子が動揺してる。やはり戦隊オタクなのだろうか。
「・・・なるほど」
エルヴェラさんは顎を抑え考え込んだ。
「不可能とは言いきれませんわ」
「おお!」
いけるのか!いけるのではないか!魔法少女に変身できるのではないか!
「戦士の姿はマナを具現化した姿だと古文書には書いてありましたの。どんな姿か定まっておりませんし、もしかしたら変えることができるのかもしれませんわ」
「よっしゃあ!」
私は拳を突き上げ、勝ち誇ったような顔になる。
「エルヴェラちゃん、この後ーどうするの?もう6時だよー」
「本当だ、もう6時だ」
壁に掛けられた振り子時計がボーンボーンと鳴り出した。
「・・・実はワタクシ・・・この世界で住む場所も帰る場所もありませんの」
「え!だから公園で寝てたの!?」
「お恥ずかしながら」
「話は聞きました」
突然、マスターがテーブルの横に現れ、胸に手を当て軽くお辞儀をしてきた。
「実は私、ヒーロー達にアジトを提供するのが夢でして。この喫茶店はそのために開いた店なのです。2階には寝泊まりできる部屋があるのでどうぞご利用ください」
「よろしいのですか?」
申し訳なさそうにエルヴェラさんはマスターを見つめた。
「寧ろ大歓迎です。長年の夢が叶うのですから」
おーいおいおいとマスターは泣き出し、グラサンの隙間から白いハンカチで拭きだす。
「いやマスターが泣くんかーい」
「感謝致しますわ」
「それでは、ファイアとウォルタをよろしくお願いいたしますわ」
『寧ろアタシがお嬢の世話してやるぜ!』
『はぁ・・・姉上』
ウォルタは短い前足で頭を抱えている。
「貴方が1番心配なのですのよファイア」
『あ、あり?』
辺りがすっかり暗くなり、私達はエルヴェラさんとマスターを見送られ各々我が家へ帰っていった。
私はファイアを鞄の中に隠し入れ、家に入るなり直ぐに自分の部屋に駆け込んだ。
『へぇー平民の部屋ってこんな感じなんだなあ』
「平民って」
私の部屋はとにかくピンク色の物が多く、キョムラングッズが沢山あるぐらいで、普通の女子中学生の部屋だろう。たぶん。
「まあファイアはお姫様だしね、そう感じるのは仕方ないかあ。ねえ、ファイアってご飯食べる?」
『ああ、要らねえぞ』
「そっか、じゃあここで待ってて。部屋の物は何でも使っていいし、ほら、エルヴェラさんが持っていた箱みたいなものとか探してベットにしていいよ」
『おう!やってやるぜ!』
ファイアは羽を器用に動かしグッと親指(?)を立てた。
「ちょっと真歩ー、誰と喋ってるのー!ご飯よー!」
「はーい!」
1階からママに呼ばれ私は急いでリビングに向かった。
夕食を終え、私は自室に早速戻った。
『お嬢!見てくれ!いいベットが見つかった!』
部屋に入るなり、ファイアは可愛らしい装飾がされたキョムランシリーズの箱型オルゴールを咥えて持ってきた。ファイアより大きいオルゴールなのに易々と持ち上げている。
「え、これオルゴールだけど寝れる?」
『寝れるぜ、中にハンカチでも敷いてくれりゃあピッタリだろうよ』
オルゴールを開け、中にモフモフのハンカチを敷くとファイアは羽をたたみすっぽり入る。
『すぴー・・・』
3秒も経たないうちにファイアは寝てしまった。のび〇か。
「私もさっさとシャワー浴びて寝よ」
その日の夜、私は眠れなかった。
今日の出来事は本当に現実だったのだろうか。
「夢ではありませんように」
布団の中で私はそう祈った。、