第1話―A「私がレッド!?新たな戦隊ヒロイン爆誕!」
遡ること1時間前─────
「今日部活オフー?」
「うん、そうだよ」
「じゃあうち来てー、昨日お母さんとマドレーヌ作ったのー食べて食べてー」
「マドレーヌ!行く!」
友達の友美に誘われて私は教室を後にした。
学校を出て坂を下り、閑静な住宅街の中を歩くと桜の木がある小さな公園にたどり着く。家から学校までの抜け道の1つだ。ふと桜の木の下にあるベンチに目をやると、金髪のお姫様みたいな子が大きな木箱を抱えてコクリコクリと眠りこけていた。少女の美しさと満開の桜が相まって神秘的で思わず見入ってしまった。
「この辺じゃ見ない子だ」
「最近暖かくなってきたけどー外で寝ちゃったらー風邪ひいちゃうねー」
「そうだね、起こしてあげよう」
私は少女に近寄り肩を揺らす。
「風邪引くよ」
すると少女はハッと目を覚まし、桃色の瞳で私をじっと見つめる。
「・・・貴方から炎のマナを感じますわ」
「え?」
開口一番に何言ってんだ。しかもお嬢様口調。
「突然の事で申し訳ありませんわ。どうかこの子を受け取ってくださいまし」
少女はおもむろに箱を開けて鳳凰を象ったヒーロー物風の玩具を取り出し私に差し出す。
「ご迷惑なのは重々承知ですわ」
「ちょ、ちょっと待って」
私は軽く少女の手を押し返す。
「ありゃりゃー寝ぼけているねー」
「寝ぼけてはいませんわ」
ぽやぽやした友美に対し、少女はスパッと冷静に返す。
「いいから受け取ってくださいまし」
「おっと!」
と押し付けられてしまった。
『アタシはファイア!これからよろしくなお嬢!』
受け取った玩具がガチャガチャと勝手に動きだし、気の強そうな女性の声を出した。
「うわっ喋った」
玩具なのだから当たり前だろう。
目の部分が点滅している、スイッチがどこなのか玩具を回転させて探してみた。
『うおお!止めろ止めろ!』
「うーん無いな」
『目が回る〜!』
などとしていると急に周りが暗くなってきた。確か今は3時20分くらいだったはず、まだ日が傾く時間じゃない。
「ん?」
空を見上げると異常な速さで雲が流れていた。みるみるうちに向こうの方で竜巻のように渦を巻だし、辺りは曇り出す。
「来ましたわ」
「何あれー」
友美は相変わらずぽやっとしているけど、私はおぞましい空に冷や汗をかいた。
「ついていらして」
少女は私の手首を掴み強引に連れていこうとする。
「えっちょっと!」
少女に引っ張られながら空を見上げると少女が向かう先に竜巻があった。小さい子を1人にさせる訳にもいかない、とりあえずなすがままについていこう。
「あわわー待ってー!」
友美は遅れながら私達についていった。
たどり着いた場所は大きな噴水がある公園だ、普段は家族連れで賑わっているのだが。
「きゃあああ!」
「うわああ!」
「助けてーーー!」
今は人々が逃げ回る恐怖の場となっている。私はもう一度空を見上げる。
「はあはあ・・・竜巻無くなってるねー」
確かに、先程まであった竜巻がいつの間にか霧散していた。
「じゃあこの人達は何から逃げているんだろう?」
走りながら私は逃げ惑う人々を見送った。
公園の中を更に進むと泣いている男の子と、その女の子を庇っているブレザーを着た女の子がいた。
「(ブレザーの子どこかで見たような・・・)」
「うえぇえん!」
「大丈夫よ、お姉ちゃんが守るから」
彼女達の前に怪人がいた。その怪人は闘牛のような頭に人間の体をし、ブモォオと鳴いている。
「その傷で守るとか馬鹿じゃね」
怪人はモッモと笑いながらひづめをブレザーの子に向けた。
「ファイア」
『はっ』
少女の声で鳳凰の玩具が動き出し私から少し離れて飛ぶ。
『お嬢、アタシと変身すっぞ!』
「変身・・・変身ってまさか!」
私は胸が高鳴った。
『戦士に変身するんだ!』
戦士・・・魔法少女の事を伝説の戦士と言う作品もある。今考えてみれば少女も妖精的な何かで、きっとサポートポジションだ。そして私に語りかけているこの玩具も妖精的な何かだろう。だとするならば
「(私、遂に魔法少女になれるんだ!)分かった、どうすればいい?」
『アタシを左胸にかざすんだ』
飛んでいるファイアを手に取りすかさず左胸にかざす。すると体が光り出した。
「(キタキタキタキタキター!!)キョムっとランランキョムチェーンジ!」
私は決めゼリフをかました。と同時に変身が終わってしまった。
「あ、あれ?変身時間が短い?」
落ち着け私、どうなったか確認しよう。まず目に入るのは白いブーツ、次に白い長手袋。うん、そこは良いかな。スカートは・・・何だか短くてピチピチする。頭を触るとキュッと音がした。
「・・・キュ?」
「真歩ー鏡貸すねー」
友美は鞄からコンパクトミラーを取り出し、私に優しく渡してくれた。鏡を受け取り自分の姿を見る。私はワナワナと震え、叫んだ。
「魔法少女じゃねえええええ!」
鏡に写った私は、戦隊レッドの姿をしていた。