二章
4話ゲリラ。
今日も紫色の人工太陽の朝日によって目が醒める。
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジイジジジジジジジジ
直後、朝食時間を告げるベルが鳴り響く。
ここは超破壊戦略航星空母艦艦隊・捕虜輸送用前衛船団(通称奴隷船)内怠惰大陸第00893号奴隷都市第七塔9993428529番奴隷兵舎の独居房だ。
エキゾチックでカラフルな兵舎外観とは裏腹に実態はただの強制収容所だ。
「騙された・・・何が島一個だ・・・島どころか独居房たった一部屋じゃねぇか畜生・・・
かなり頑張って6万人は踏み潰してやったのに・・・とんだくたびれ儲けだった」
食堂にはサブカルやファンタジー映画でお馴染みのエルフに猫娘、爬虫類人、両生類人、オーク、ドワーフ、ゴブリンeteそれらにソックリの幻想世界人。
SFに出て来そうなタコやゴカイ、ヤスデ、ゴキブリ、ハエ、ダンゴムシ、バッタ、カマキリ、クワガタ、蝶といった昆虫人に機械人、鉱物岩石人、粘土人、ガス状生命体人やらとその凄まじい人種の坩堝っぷりの異星人達が屯していた。
食事は四角いアルミ皿トレイに乗った粘土みたいなもんで食べる前に皿の横に付いてる自分の種族のボタンを押せば数秒で終わる自動調理が始まるが見た目は色しか変わらない。
地球人用のボタンは無い様なので仕方なくエルフ星人用のボタンをいつも押している。
卵焼きみたいに黄色い粘土が3秒位で緑色の粘土に変わり食欲に打撃を与えるが味は意外と悪くは無く中華料理のピータンに似ている感じ。
一度興味本位でキノコ星人のボタンを押したものを食べた時などは2日間下痢便嘔吐が続いた事もあり他の星のボタンを押す勇気は今はもう無い。
俺は収容直後に脳に埋め込まれたチップでエハ帝国共通語を話せる様になっていたので色々と話を聞いてみると、こいつらの全てが母星を破壊され奴隷として連行された者の子孫で最短の種族でも5世代以上経ているのだという。
仕事はエハ人以外が営むもの以外は全て機械化されていた。
エハ人以外に労働している者はどこにも無くどうやらベーシックインカム社会らしかった。
学力は分野によってムラがあるがエハ人を除けば贔屓目に言って一部の相当賢い奴でも小学校3年生レベル。
娯楽と言えば麻薬か博打ばかり。
麻薬をキメて喧嘩する者。
その勝敗に数日分のトレイ粘土を賭ける者。
ここにはありとあらゆる星の麻薬文化と賭博文化が混在していた。
配給の前借りが出来ないので博打で大負けしてそのまま餓死したり奴隷の奴隷になる者も少なく無かった。
そこまで幼稚でも無い者は鬼ゴッコや隠れんぼをしたりドット絵風のレトロなゲームで遊ぶかルービックキューブみたいなパズルや知恵の輪を解くか音楽を聴いている。
それ以外の奴は春画で・・・まあ、一見スマホ一個ありゃ神と崇められたであろう程の強烈な愚民化を施されている自堕落な民だ。
読書等の文字文化は見当たらない。
兎に角街をどれだけ探しても教育施設が見当たらない。
例外は人民教堂というエハ人の星砕経典派と呼ばれる信仰の宗教施設らしかった。
「君、ハヅツ君・・・ですか?」
振り向くと灼熱色の真っ赤な長髪と両手の猛禽を思わせる鋭い鍵爪に一本角と単眼の瞳にピンク色の肌を持つ俺と同い年位の鬼娘が立っていた。
「ハヅツ君ってここに来る前に地球星砕戦争に参加したんですか?」
別に単眼顔はタイプでは無いが不思議と気持ち悪さは感じない。
個人的には一晩だけなら相手をしてもいい位のかなりの美形だ。
「ええと、君の名前は?」
スタイルは少女趣味なウチの変態オヤジ殿が喜びそうなまあまあの肉付きだ。
デザインや色彩は独特だがやはり地球の学生服に似た服装をしている。
赤のレギンスとスクール水着を合わせたみたいな下着を穿いた上に半透明なスカートの様な物とブラウスの様な物を着ている。
「アカヅノ・・・アジュノン・アカヅノ・エバソクです。あ、あの、自分の惑星を破壊した時ってどんな感じだったですか?」
「・・・うーん、まあ惑星破壊爆弾を炸裂させたのはエハの軍人さんだし自分は投降後に軍人さん達の指示通り同族を6万人程踏み潰しただけだから惑星破壊に関しては殆ど何もやってないのと同じだよ。母艦の窓から見た地球の最後は何と言うか壮観だったよ。不謹慎かも知れないがあんな光景はもう二度と見られないだろうな。凄く綺麗だった。うん。」
何か神聖な叙事詩の一節を聴いたかの様にアカヅノはうっとりと覇星の言葉に聞き入っていた。
「自分の星を壊す戦いに参加したなんて本当に凄いです・・・羨ましい。私のご先祖様は悪魔に騙されてただ逃げ回って捕虜にされただけだから情けないです。」
「いや、それは仕方が無いよ。銀河を束ねる超文明と一つの惑星じゃ本来戦いにすらならないのは当たり前だ。」
「そんな事無い!だってハヅツさんはちゃんと自分の星と戦ったじゃないですか!それなのに私達の祖先は惑星を崇拝してあまつさえエハ帝国に歯向かったんですよ?惑星崇拝は宇宙最大最悪の大罪なのに!」
「うん、撃星機を貸してくれたエハ軍人のアラキルアリシ(┃ω┃)って方にも聞いたけどエハ帝国では母星崇拝というのは邪教らしいね。」
「そうですよッ!」
「アカヅノ、君達の価値観は地球の価値観とは余にも掛け離れてて理解し難いのだけど。どうして自分が生まれ育った惑星を大切にする事がそんなにいけない事なんだい?」
「え?だって野蛮人は惑星や宇宙樹なんかに住んでるから科学を悪い事ばかりに使って争いが絶えないんですよ?惑星という悪魔さえ爆破すれば人々は自由と平和を手にして人工衛星を建設してやっと文明を手に出来るんです!そんな事も知らないなんて・・・」
「その異星人達は惑星が爆発したのにどうやって人工衛星を建設出来たの?惑星の鉱物資源が豊かだったから人工衛星を建造出来る程に科学技術が発達したんじゃないのか。」
「そ、それは・・・何だか邪教者みたいな事言うんですね?エハ人は凄く優秀だったから・・・エハ人の人工衛星で宇宙最初の文明が誕生したって・・・野蛮な種族程に惑星の魔力で騙されて惑星に固執して進歩が停滞して争いと混沌を生むって言われてるし。
貴方の星にも動物や植物っていう悪魔が沢山居たでしょう?
動植物は野蛮人を騙す為に惑星が魔力で産み出す悪魔で野蛮人は悪魔の肉を毎日食べているから呪われて悲劇を繰り返すって人民教堂の友愛師さんが言ってたし人工衛星に住んで助け合って生きている私達とは余にも道徳心と思考が乖離しています。
だから惑星という悪魔にはいつか天罰が下って星砕されるのが普通なんです!
そしたら人々は団結して助け合って人工衛星を建設して科学が発展していくんです。
宇宙は過酷だから科学を悪い事に使う暇なんて無くなるし発展するんです!それが文明なんです。」
「なる程、それが君達の倫理観か。」
「君達って・・・邪教者以外では当たり前の宇宙の摂理ですよ?やっぱり地球人にも邪教者みたいな凶悪な考え方の人が多かったんですか?」
「さて、どうだろう?僕は自分の生まれ育った街の人間達を嬉々として焼き殺し踏み潰しまくったよ?」
「そんなの当然です!全銀河全宇宙に暮らす知的生命体の敵である惑星・・・その魔力の毒に縋る者は全て悪魔の化身に過ぎないのですから殺されて当然なんですよ!」
「知的生命体を含む生命を育んだのは惑星なのに?」
「ゴミや汚物にどんなに沢山のウジムシがたかっていてもゴミが神聖な物にはならないのと同じです!ゴミはゴミ!ウジムシはウジムシですよ!貴方の星にも神話や伝説の類はあったでしょう?神聖な存在は全て神聖なるエハ人工衛星から始まりました。人工衛星を髣髴とさせる伝承位あった筈です!」
「別に歴史学者じゃ無いがそんなの全然無いよ?それは確実に断言出来る。『壁画とか神話の神々の乗物が宇宙船に見える』とかこじつけみたいな奇説ならあったが。」
「なら地球人はよっぽど地球の毒に冒されていたのでしょうね。」
ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジイジジジジジジジジ
「何だ?食事は一日一回だった筈だが?このベルは何の知らせだ?」
「あっ何かあったのかな?緊急伝令だよ。」
ぷにぷにという足音と共に一人のエハ人が入って来た。
00893号奴隷都市の奴隷兵収穫責任者アラキルアリシだった。
(┃ω┃)よう?元気か子供達よ!
「アラキルアリシ32等兵様!」
「きゃーアラキルアリシ様だわ!」
聞いた話によると衛星都市メダエコ出身でない航星空母艦出身のエハ人にとって32等兵というのはとんでもない叩き上げらしかった。
その上エハ・ムキルインヨジ・メダエコ第一書記子から直々に将軍機を貸し与えられた者となればこれはもう政治的な意味を持つ異常な出世らしかった。
よって怠惰実験大陸での彼の人気は絶大だった。
(┃ω┃)突然だが撃星機の搭乗者を2人程募る事になったので。志願者の挙手を求む。
「はいはーい!俺また乗りたいです!」
(┃ω┃)はい、覇星君採用!他には居るか?
「・・・」
「何かアカヅノさんが志願したいとさっき言ってました。」
「え?わっ私がいつ!?」
(┃ω┃)はい、OKOKアカヅノ君も採用!以上締切り!さっきの2名には赤紙が1週間後送付されるので身辺整理しといてね。
「よーし!楽しみだなぁ」
「あわわわ大陸史において奴隷兵が撃星機に搭乗するなんて聞いた事がありません!!」
(┃ω┃)まあ、奴隷とはいえおまいらはだいたいどの種族も数千年以上帝国に忠誠を尽くしてくれているからな。
それに他の大陸でも過去数千年間にまったく登用前例が無かった訳では無いんだ。
「確かに技術奴隷として航星空母艦に乗艦したケースは過去に数例あるのですが・・・私の様な奴隷種に果たして撃星機の搭乗者が勤まるのでしょうか?」
(┃ω┃)お前、その情報どっから聞き出したんだ?友愛師は口が裂けてもそんな情報をお前に教える筈が無いんだがな?
「第3格納庫の輸送機関直結炉さんに聞きました。」
(┃ω┃)うん、典型的な機械感応だな・・・俺の勘通りだった。
「???こいつに超能力があるのか?」
(┃ω┃)つまり俺の精神感応の機械版だな。でも、こっちは何も伝えて無いのにコイツをよく探し出したな?偉いぞ覇星!
「いや、何か偶然知り合いになっただけだよな?」
(┃ω┃)ほう、それは興味深いな。
(┃ω┃)こんな風に異星人奴隷ってのはたまに超能力に目覚める奴が出て来るから便利なんだな。ただ普通にクローン複製しても超能力が発現しない場合や劣化発現する場合が殆どなので奴隷船で牧場大陸をいくつも経営する必要があるって訳だな。
「本当にクローン技術で生み出せないのか?」
(┃ω┃)ああ、出来ても劣化が激しい上にそれを無理矢理成功率を上げようとしても超高コスト化するので行き着いた結論が人工大陸内で模擬世界を構築して超能力獲得時の再現性を高めるというものだった。