脱重課金のため、いざタイムスリップ
私は少し変わった約束を小学生の頃に幼馴染と交わしている。
それは、『タイムマシンができたら真っ先にお互いに知らせる』そして、『常に飛ぶ時代や目的を考えておく』ということ。
こんな子どもの約束、普通なら幼稚園児の「大きくなったら先生と結婚する!」というような、時の流れとともに忘れていくべき約束だろう。
しかし、漠然とこの約束は何年、何十年経っても守るべき、そして守られる約束だという自信があった。
それは互いが実家を出た今でも年賀状を送り合い、連絡がつくようにしているからかもしれない。
ある日一通の手紙が届いた。差出人は彼だった。
そこには「小学生の頃の約束を覚えていますか?覚えていたらこの番号に連絡をください。」とだけ書かれていた。
私は胸が高鳴った。タイムマシンができたかもしれないということ以上に、彼が約束を覚えていて、こうして連絡をくれたことが嬉しかった。私はその場で電話をかけた。
「もしもし、高木ですが…」
「よかった!君も覚えててくれたんだ!」
私の声を遮るようにして、彼の嬉しそうな声が響いた。
あれから声変わりもして低くなっていたけれど、そこに含まれる真っ直ぐな少年のような声色に、彼の面影を感じてなんだか懐かしくなった。
ちょうど明日は2人とも休みだったので、詳細は明日彼の研究室で直接聞くことにして電話を切った。
「今までありがとう。そしてもうお別れね。」
スマホの中の彼にそう呟く。
翌日、研究室に向かうとあの頃のような無邪気な笑顔で彼が迎えてくれた。
「ちゃんと考えてある?」
「もちろん。条件に合わせて何パターンもね。」
「流石だよ。」
まだ完成直後で殆ど実験ができていないことや、少ないながらも判明していることを彼から聞いた。
「だから…」と言って彼は1台のガラケーを手渡してきた。
「行くのは過去だけ。それもこのガラケーが開発された後の時代。君から僕への一方通行だけど、こっちのガラケーにメールしてくれれば、僕は君の状況を知ることができる。行ける範囲は狭いけど大丈夫?」
「なら話は早いわ。5年前に飛びたい。目的は私にこのアプリと出会わせないこと。」
「そんなことでいいの?」
「そんなことじゃない!このアプリに重課金して全てが…!」
「わかったよ。ここに座って。」
視界が徐々に暗くなり、体が宙に浮いている様に感じる。
ハッ…
「夢…?」
ベッドから起きると一通の見慣れない手紙がテーブルの上に置いてあった。