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無理矢理な表現があります。
不快に思われる方は無理せず読み飛ばして下さい。
誤字報告ありがとうございます。
すごく助かります。
聴こえてくるのは、船がかき分ける波の音。
沈黙は続いたままだ。
これは私から話し始めなければならないのだろうか。
出来れば口にもしたくない。
それも許しては貰えないのだろう。
「ーーーーそれで、閣下は何を知りたいのですか?」
決して目は合わせない。
視線は首元よりした、シャツのボタンに固定する。
「ああ、確かリーの生物学上の父親でしたか。ーーーー聞いてしまったら、知らなかった事には出来ませんよ?それでも?」
今なら、私もリーも無かった者に出来る。知ってしまったら、もう知らなかった頃には戻れない。
「それでもだ。決定的なものを見てしまったから。君は頷くだけで良い。父親はリオンレーン、だね。」
久しぶりに聞いたその名前に兄は驚き、私は目を閉じて頷いた。
「どうして!どういう事なんだ!!リーナっ。どうしてそんな事になったんだ!」
兄はあの子の瞳を見ていないらしい。金の瞳は王家の血脈でないと決して現れない。光の祝福を受けていると言われており、この国ではそれほど珍しく、高貴な瞳だ。
「どうもこうもーーお兄様、少し落ち着いて下さいませ。」
兄はグラスに残っていたワインをぐっと飲み干して、さらに注ぎ入れてそれも一気に飲み干した。
そんなに動揺するもの?
ーーーそうなのかも知れない。ピクリともしなかった閣下はある程度予測していたのでしょうね。
「ーーー辺境伯と私は旧知の仲なのだが、最近領地で金の瞳の子どもを見たと密書が届いた。取り急ぎ確認をしに向かったのだがな。年は3〜4歳ほど。4年前に消えた令嬢はリオンに媚を売っていたと噂があった。」
その言葉に怒りを覚える。
媚を売ったこともなされば、自ら近づいた事もないと言うのに。悪意は垂れ流されて嘘でも本当の様に語られてしまう。
「私、そんな尻軽ではございません。既に婚約者もおりましたし、逆に迷惑していたのは私の方です。根も葉もない噂だけが広がってしまって、接触しないように社交を控えていたくらいですもの。」
閣下は長い足を組み替えて、背もたれに倒れ込んだ。
「君は妃になりたくないのか?」
「側妃にしてやるとか言ってましたけど、はっきり言って何が良いのかさっぱりわかりません。」
「それなのに子どもまでもうけたと?」
嫌な人だ。
わかっていて、答え合わせをする為に全て私に語らせたいのだ。
どう言う経緯で、ここに至るのか。
話したくなんかない。
思い出したくもない。
「出来れば、お話ししたくありません。」
組んだ足の先を見つめる。
汚れたブーツ。手入れをしないと痛んでしまう。誰か御付きの人はいないのかしら。まさか兄と2人だけ?
誰が2人の世話とかするのかしら。
ーーこんなどうでも良い事を思うなんて、現実逃避にしかならないわよね。
「それならばこのままリオンの妃なるしかない。はっきりと特徴の出ている子どもがいるのだし、疑う者はいないだろう。」
その言葉を聞いて戦慄した。
無理。
絶対無理。
話したくない、顔も見たくない、触られたくない、同じ空気を吸いたくない。
それを強要されるなら一層の事ーーー
「ーーーー2人で海に飛び込んだ方がましだわ。」
見上げて出会った金の瞳をキッと睨みつける。海に飛び込んでも生き延びる可能性はある。あの外道の妻になる位ならその僅かな可能性にかけた方がマシ。
合った瞳は不思議に最初の怖さを感じなかったが、ここで晒したら負けた気がする。
暫し睨み合い、閣下の方から視線を逸らして、はぁーと息を吐いた。
「それが嫌なら、話しなさい。悪いようにはしない。」
淑女としてはだらしないが背もたれに思いっきりもたれかかり、皺の寄った眉間を揉む。
閣下の望む話しは、今から4年前に遡り、シーズンも終わりのある侯爵家の晩餐会から始まる。
*****
あの頃。
私は社交を制限していた。
絶対に出席しなければならない催し以外は全て欠席。お茶会にさへ、出なかった。
絶対は、王家主催のものだけ。王の名の下で出された招待状は無視できない。が、運良くこの時期に王家主催の催しはなかった。後は家よりも高位の方々から。懇意にしている方や、良識のある方、噂を確かめようとする方、まあ色々いるが病気療養を理由としてお断りの手紙を差し上げていた。そのような中、婚家である侯爵家から身内だけの晩餐会への招待状が届いた。辺境伯と結婚した娘であり、私の親友が王都に戻って来ていて、私に会いたがっていると。ごく親しい者の集まりなので、是非にと、婚約者から添え書きがされていた。
婚家となる侯爵家の主催であるし、王子殿下がそんな内輪の晩餐会に来る訳がない。それ故、安心して出席する事にした。
特に問題もなく始まったと思う。
辺境から戻った親友との話も弾み、久しぶりの外出であり鬱々していた気分も向上した。
親友の嫁いだ土地の特産だと言う、少し甘めのワインを勧められて、美味しく頂いていた筈なのだが、途中でから少しずつ気分が悪くなってしまった。悪酔いしたのか、目眩がしてふわふわし始めた。これはマズイと思いお暇しようとしたのだが、婚約者に少し休んで落ち着いてからにした方が良いと勧められて、別室に案内された。
もうその頃には自力で立つのも辛くなって、周りの状況も良く分からなくなっていて。抱き上げられて、横にされ、少し意識が浮上したのは体が弄られているのに気がついた時だった。
コルセットが外されて呼吸が楽に出来るようになった。最初は侍女が介抱してくれているのかと思った。確認しようと目を開けようとして初めて、体が思うように動かせない事に気がついたのだ。
手も足も動かせず、声さえ出せない。
意識下で焦ってもがいて、助けを呼ぼうとして、でもどうにもならなくて。そんな必死さの私を置き去りに、誰かがのしかかってドレスを剥いで行く。
これは非常にマズイ事態だった。
結婚前の娘にとっては由々しき事だ。
キスされ、乳房を揉まれ、全身を弄られても身動きひとつ、拒むことさえできない。全身を這う舌が怖くて、弄る指が気持ち悪くて仕方なかった。
このまま、純潔を散らしてしまうの?
相手が婚約者ならまだ良い。
全く面識もない、知らない男だったら?
ゾッとしてどうにかして指の一本でも動かせたら、そう思っていた。
思いもかけない所に痛みと圧迫感が押し寄せて。その刺激でピクリともしなかった瞼が開いた。
目の前にあったのは流れ落ちる黒髪に、ギラギラした金の瞳。
散々避けて来た第2王子がそこにいた。
私の事など一切構う事なく、出し入れされる衝動。
私の口からは言葉らしきものはなく、だだ吐き出されるのは喘ぎ声。僅かに開いた目からは涙が溢れた。
「これでお前は僕の物だ。中に散らしてしまえば、もう逃げられないよ。側妃として、ずっと囲ってあげる。僕なしではいられなくして上げるよ。」
そう熱のこもった目で呟くと、前後していた腰の動きが速くなり、「うっ」と呻くと同時にお腹の奥に熱い物を撒き散らした。
それで満足したのか、萎えた物を取り出してそのまま隣に横たわり眠ってしまったようだった。
何が起こってしまったのか、ようやく霞の取れた頭と動くようになった体を抱えて考える。
貴族の娘に降りかかった死活問題だ。
コレを他の人に見られたら、ふしだらなな娘確定で即婚約破棄の上、ひっそりと王宮に上がる事になる。
王家の種を植え付けられたのだから当然だとも言える。
この謀に誰がどこまで関わっているのか。
第2王子殿下がこの計画を立てたのはわかった。そして、この部屋まで連れてきた婚約者がその計画にのった。では侯爵家自体も加担しているのか。親友も?では伯爵家はどうだろう。行けと進めた両親も実は王家に繋がりを持ちたかったとか。お兄様は……。疑えば疑うほどに皆が怪しく思えて、どうすることが最善なのかわからなくなってしまった。