相方の魔導師は最強ですが、エルフちゃんはどうにもお困りのようです
ボクの名前は神野耀。
ううん、『元』神野耀と言うべきかもしれない。
今のボクはエルフ族のヨウとしてこの異世界で生きている。
――車に轢かれて事故に合う、なんてよく聞く話を、ボク自身が体験することになるなんて思わなかったけれど。
さらに予想外だったのは、目が覚めたら異世界にいた、なんていう非現実的な状況だった。
魔物に襲われていたエルフが、前世の神野耀の記憶を思い出した結果、今の『ボク』がある。
そう、ボクの隣にいる《魔導師》の青年は推察しているんだけど……。
「うーむ、《ドラゴン》の姿は見えんな」
「ひゃ――どさくさに紛れて尻を触るなっ!」
ぱしっ、と青年の手を振り払う。
威嚇するように歯を見せると、青年は手をヒラヒラとさせながら笑い、
「軽いスキンシップじゃないか、ヨウ」
「どこがだよ……! いっつも胸とか太腿とか変なところばかり触って……!」
「白くてスベスベな柔肌があったら触る――普通だろ?」
「全然普通じゃない!」
怒りを露にして、そう言い放つ。けれど、この人には特に通じないのは分かっている。
彼の名前はオルバ・リュートル。一見すると――というかどうみても変態行為の多いオルバだけど、この世界では悲しいことにそれなりに名の知れた魔導師らしい。
《水星の魔導師》と呼ばれて、特に水の魔法に関しては彼の右に出る者はいない、とか。
そんなオルバとの出会いは、森の中でのことだった。
ボクが魔物に襲われているところを助けてくれて、怪我の治療までしてくれた。
色々と記憶の混濁しているボクの話も聞いてくれて、その時はとても優しい青年だと思ったのだけれど……。
「普通さ。こんなに可愛い銀髪エルフがいたら、誰だってセクハラするものだ」
「……最低すぎる」
はあ、と大きくため息をつく。
そして、オルバの言ったことは間違っていない。可愛い銀髪エルフにはセクハラをする、ところは間違っているけれど、ボクが可愛い銀髪エルフというのは事実だ。
――記憶を取り戻したボクは、その姿を見て改めて驚いた。
長い銀髪に透き通るような白い肌。それこそファンタジーでしか見ないような姿が、そこにあったのだ。
長い耳もピコピコと動かせる、そんな可愛らしい姿をしているのが、今のボクなのだ。
記憶の混濁というのは色々と大変で、ボクの記憶はエルフと人間だった頃が合わさって、思い出そうとすると曖昧なものになってしまう。
どうして森に一人でいたのかも分からない。
少なくとも、近くにエルフの里は見つからなかった。
行く宛てのないボクを保護するという形で、オルバと行動するようになったのだけれど……。
「ヨウが優しくしてくれないとドラゴンに勝てないかもしれないな……」
「あのね……」
一緒に行動するようになってから、オルバという青年についてよく分かるようになってきた。
まず、彼は普通じゃない。
一言で言うと、結構な変態だ。
ボクは前世が男だということを、彼にはっきりと告げた。
その上で、オルバは「まあ今は銀髪エルフの女の子なんだし、触り放題だよね」という返答をしてきた。
銀髪エルフの女の子だからって別に触り放題なわけもないし、前世が男というのは一切加味してくれない。
結果、夜な夜なボクの眠るベッドに忍び込んではセクハラを仕掛けてくるやばい奴、というのがボクの評価だ。
それは、こうして仕事の時でも発揮される。
オルバ・リュートルは若くして国から仕事を任される魔導師――ドラゴンの討伐依頼も、オルバだからこそ任されたと言える。
「ふざけている場合じゃないよね。ドラゴン取り逃がしたら、町に被害が出るかもしれないんだよ?」
「俺を心配してくれてるのか?」
「町に! 耳ついてる?」
「その蔑むような表情もいいな……」
……ダメだ、こいつ。早く何とかしないと……。
こうなったら、ボクだけでも真面目に仕事に努めなければ。……といっても、ボクの力はたかが知れていて、一人で何かできるレベルにはない――
「あれは……まさか!」
「うひゃあ!? 胸に触るな!」
「いや、ドラゴンかと思って……」
「そんなに大きくないよ!」
「気にするな、胸がない方がダイレクトに胸の感触が伝わって俺は好きだ」
「君の趣味は聞いてない――って、あれじゃないの!?」
ボクの視線の先――ボク達から見て遥か遠くにドラゴンが飛んでいる姿が見える。
ボク達がいる場所の当てが完全に外れているってことだよね、これ。
「もう! 全然違うところにドラゴンいるじゃないか! どうするんだよ!?」
「まあ、ここからなら間に合うから心配するな。俺に掴まれ」
そう言って、両手を広げるオルバ。
ボクのことを抱っこする形で連れていくつもりなんだろうけれど……。
「……」
「どうした、ドラゴンが逃げるぞ」
「……っ、わ、分かってるよ。変なところ触ったら怒るからね」
「心配するな、見るだけだ」
そう言って、抱えてすぐにスカートをまくるオルバ。
パチン、と周囲にボクのビンタの音が響く。
「――ッ! こ、この変態!」
「ははは、いい感じに気持ちよかったぞ。もう一回殴ってくれ」
「うぅ、もう嫌だ……。この仕事終わったらパーティ解散だからね!?」
「本当にすみませんでした。真面目にやります」
何故かそこまで言うと急に素直になるオルバ。……そうはいっても、この世界で友人のいないボクにとって頼れるのはこの変態くらいなんだけど。
「じゃあ、さっさと終わらせてヨウにセクハラかますか」
「いまセクハラって言ったよね! 認めたよね!?」
「セクシャルハラミという牛の肉があってな」
「ないよ!? そんなの!」
……そんな彼との冒険は、いつも前途多難だった。
やはりTSエルフの女の子が困っている姿が見たい……そんなときは相方の魔導師を鬼畜にすればいいと思ったのにただの変態になってしまった図。
連載にしようかと思ったんですけど一先ず短編で。
相方女の子にしようと思ったんですけどなんか男の方が変態度が増す気がして……どっちが好みですか?