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魔女の石と精霊


 意味が分からない。


 この国に呼んだ? サリュが?


「ちょっと待って」

「ちゃんと話さないといけないと思っていた、すまない」


いや、本当にに分からない。


「場所をかえよう」


 そう言うサリュのあとについて歩きながら、私はぼんやりしていた。なんとなく、この話を聞きたくない。けど、足を止めた私の腕をサリュは強く掴んだ。どうしても私はサリュの話を聞かないといけないのだろう。


 サリュに半ば引きずられるように連れてこられたのはキャンプから少し離れた丘の上だった。前にサリュをアイドルに誘いまくってたときもこんな星空がよく見える丘にきたっけ。

 しばらく二人してぼんやり満天の星を見ていたけれど、何かを思いだしたようにサリュが口を開いた。


「前に魔女から精霊を呼び出す石を買った話をしただろう」

「サリュが騙されたやつ?」

「騙され……まあ、な」

「それが?」


 サリュは私の顔を見つめたあと、ふいと目をそらす。サリュにしては珍しい。何を聞かされるのか胸がどきどきしてくる。サリュがそっと口を開いた。


「精霊は呼び出せなかったが、かわりにお前が、いた」

「ん……? あ? 精霊のかわりに私?」

「そうだ……俺の力量が足りんかったのか、石が偽物だったのか、分からん。だが、お前がいたのは確かだ」


 ひたすらに静かだった。


 よく、わからない。

 ほんとうに、わからない。


「サリュ……ちょっと、わからない……」

「お前には早く言わないとだめだと思ってたのに、言えなくて、すまん」

「いやだから、ちょっと、考えさせて?」


 思わずサリュの隣から腰をあげると、手を握られる。冷たい。


 つまり? 私はサリュが精霊を呼んだときにこの世界に来たってこと?

私って精霊なの?


 そんな訳ないけど、魔女の石だかなんだかで私はここにいる?


 その石を使ったのは、サリュ?


 サリュのせいで?

 わたしは?


「サリュ」


 私を見上げてくるサリュは見たこともないくらい、心細い表情をしていた。

 けどサリュのせいで私は元の世界から引き剥がされたんだと思うと、自分でもどうしようもないくらい心が冷えていく。


 どうしようもないくらい。


「メイ」

「いやごめん、ちょっと一人にして」


 サリュの手を振り払って私は自分のテントへと向かう。けど、サリュは私を一人にしてくれない。


「一人にして」

「テントまでだ。一人にできん」


 危ないからだ、知ってる。けど今はそんな優しさすら邪魔だった。


 これ以上一緒にいたら酷い言葉を投げる、確実に。だから黙ったままでテントに飛び込んだ。ここだけは一人になれる空間だ。

 ふわふわの毛布を引き寄せてくるまると、勝手に体が震えた。ゆっくり考えないと、と思うのに、頭に血がのぼっている。

 なんで私がこの世界にきたのかなんて、考えても分からないから考えないようにしてた。確かに最初のころは毎日考えてた。でも答えなんてでない。だから、私が今ここでできることに視線を向けた。


 踏み出せ、一歩。

 背中を押してくれたのは、サリュだったのに。


 だめだ、落ち着こう。そうだ、ダブルを聴こう。プレイヤーに手を伸ばし、イヤホンを耳につっこむ。ヨージの声がききたい、そう思うのに、耳には何も届かない。いや、そもそも、プレイヤーに電源が入らないのだ。だめだ、これは私と元の世界をつなぐかけがえのないものなのだ、だめだ、これではただの無機物じゃないか。


「いやだ、電池……予備の」


 ないことは分かっていた。こっちの世界にきて大事に使ってきた電池は、ついに、切れたんだ。こんなタイミングで切れるなんて、どれだけついてないんだろ。冷静に考えたら、ここまでもってくれたのは、奇跡みたいにありがたいことだと思う。

 でも今は目の前が暗くなる感覚しかない。


 私は、ダブルを失ってしまったのだ。


 サリュの、せいで。


 どうして、こんなことに。

 体が震えている。

 そのときだった。


「メイ、いるかい?」


 テントの入り口が遠慮がちにめくられ、 ノーラが顔をだした。


「どうした? 具合が悪いのか?」

「いえ、ちょっと、寒くて」

「そうかい……あー、黙ってようと思ったんだけどね。さっきまでこのテントの前でサリューがうろうろしててね。女の部屋の前でうろうろすんじゃないよって追い払ったんだけど。……喧嘩でもしたかい?」


 喧嘩、じゃない。これは何だろう。喧嘩の方がよかった。ノーラに相談したかったけど、何をどう言えばいいか分からなくて、私はひたすらに首を横に振ることしかできなかった。


「サリュは、メイと話がしたいってさ。私も一緒に話してやろうか?」


 ノーラは優しい。何も言わない私の様子をみて、心配してくれてるんだ。


「……いまサリュと話すと喧嘩しちゃいそうだから」


ようようそれだけ言う私に、ノーラはからからと笑うと静かな声で続けた。


「喧嘩すればいいじゃないか。メイには言いたいことがあるんだろう? サリュはそれを聞きたいんじゃないかな」


 言いたいことは、怨み事とか文句だけど、サリュはそれを聞きたいんだろうか。それで自分の罪悪感を軽くしたいのだろうか。だめだ、性格悪いことばかり考えてしまう。


「考えてても何も変わりはしないさ」

「でも、ひどいこと言いそうで」

「言えばいい。どうせ今は頭の中で言ってるんだろ? サリュは受け止めれない器でもないさ」


 確かに心の中でぐちゃぐちゃ抱えててもどうしようもないんだろう。

 そういえば、サリュには最初から何でも言ってきた。言葉が分かる人がサリュしかいなかった刷り込みみたいなものもあるだろうけど、確かにサリュには作らない自分でいられた。


 毛布から出て拳を握る。サリュと話そう。


「ノーラ、私、サリュと喧嘩してくる」

「いってきな」


 ノーラに見送られてテントを出ると、自分のテント前で立ち尽くしているサリュが見えた。王子様は嘘みたいに元気がないけど、私に気づいて何かを言いたげに手をあげる。私は足を踏み出した。生まれてはじめて正面から誰かと喧嘩をするために。



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