表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

戦火の花

作者: 宅間みお

プロローグ



感じたことがあるだろうか。本当の自分を。

信じることができるだろうか。愛するということを。


その日も会社の締め切った窓から、小さなサイレンの音が聞こえた。危険を知らせるサイレンの音。同じ国でも同じではない。知らない日常が起きている世界。私が知るのは、私だけの世界だった。

父の会社に勤めてもう6年が経つ。今日も弾の注文が多い。終わらない戦争に火を注ぐ気もないが、知らない世界の話だった。何事もない日常。そこにあるのは歩むべき道。父の会社で事務員として、歯車のように送る日常。そこに何があるのかわからなかった。そこには何もない。何があると思えるのかすらわからなかった。


終業のチャイム。

「中条さん、社長によろしくね。」

会ったこともないやつからの意味のない言葉。そこには何もなかった。


香葉子かよこ、先に帰っているように』

ロッカールームに行くと、ロッカー扉に見慣れた文字で張り紙があった。婚約者だった。父の目にかなった人。わたしにはその人と決められていた。3つ年上の彼は私に優しかった。その優しさは、私への優しさなのか。父への優しさなのか。彼自身への優しさだろう。

いつからだろう。周りに人がいなくなったのは。鎧を纏っていたわけじゃないのに。知らないうちに心の中にあるのは見てはいけない、知ってはいけない人の闇になっていた。私の人生どこにあるんだろうか。そう思って息をつくスペースすら、もう私の人生には残されていなかった。

「うっ」。急に胸のあたりが苦しくなった。この時間帯、混み合うはずのロッカールームにはだれもいなかった。苦しんでるところなんて知られたくない。安心した。周りにだれもいなくてよかった。知られなくてよかった。


ロッカールームを出ると非常灯と傾きかけた太陽の光以外、そこには何もなかった。そうか、夏休みで人が少ないんだ。もう、しばらく夏休みなんてとっていなかった。どこへ行ったって休まらない。どこへ行く予定もない。今日も家に帰るしかなかった。みんなが羨ましい。私も自分の人生を歩みたい。でも、父がいなければ、婚約者がいなければ、母がいなければ、この会社がなければ、困る。1人じゃなにもできない。辛かった。でも終わりにできず、永遠に続く。これは続く。いつまで、続けていかなければならないんだろうか。

今日も家に帰らなければならない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ